タンパク質相互作用解析におけるクロスリンカーの用途について

タンパク質相互作用解析におけるクロスリンカーの用途について

はじめに

弊社のクロスリンカー製品は抗体の酵素標識や固定化などで長年にわたり使用されてきました。近年ではLTQ Orbitrapシリーズなどの高分解能の質量分析計と免疫(共)沈降にクロスリンカーを組み合わせたタンパク相互作用解析に関する研究方法(Crosslinked Co-IP MS)も開発されています。今回は、タンパク質相互作用解析におけるクロスリンカーの用途についてご紹介します

Crosslinked Co-IPとは?

免疫共沈降(Co-IP; Co-Immunoprecipitation)はターゲット特異抗体を利用したin vitro相互作用解析法で、細胞や組織の抽出物をサンプルに用います。これらのサンプルの調製で用いる溶解バッファーには界面活性剤(例; RIPA bufferでは0.1% SDS, 1% NP-40, 1% Sodium deoxycholate)が含まれることがありますが、界面活性剤で破壊されてしまうような弱い相互作用もあります。特に、界面活性剤による可溶化が必要な複数回膜貫通型タンパク質との相互作用解析(結合パートナーの探索や同定)では、相互作用を維持したまま相互作用複合体を可溶化するための条件検討が必要になることがあります

以上のような理由から、タンパク質-タンパク質間を化学的に共有結合(安定化)できるクロスリンカーが免疫共沈降による相互作用解析で使用されることがあり、(Chemically) Crosslinked Co-IPともよばれます。

クロスリンカーの種類

細胞膜透過性クロスリンカー(ほとんどが不溶性)による架橋は細胞内および細胞外の相互作用複合体に対して網羅的に生じますが、細胞膜不透過性クロスリンカー(不溶性)による架橋は細胞外に限定されます。また、水溶性クロスリンカーはDMSOやDMFなどの細胞毒性を有する有機溶媒を使用せずに試薬を溶解できる利点もあります。

反応性官能基としては、タンパク質の分子表面に存在する1級アミン(Lysine側鎖アミン)に対するNHSエステル(またはSulfo-NHSエステル)を両端に含むクロスリンカーから条件検討するのが一般的と言えます。クロスリンカーはスペーサーアームと呼ばれる構造を含みますが、この長さ(アーム長)が長くなると収率は向上する傾向がありますが反応特異性は低下する傾向があります。

表 クロスリンカー製品の種類と特徴
製品名 アーム長 切断条件 水溶性 膜透過性
EGS 16.1 Å ヒドロキシルアミン 不溶性
Sulfo-EGS 16.1 Å ヒドロキシルアミン 水溶性
BSOCOES 13.0 Å 塩基性 不溶性
DSP 12.0 Å チオール還元剤 不溶性
DTSSP 12.0 Å チオール還元剤 水溶性
DSS 11.4 Å 切断不可 不溶性
BS3 11.4 Å 切断不可 水溶性
DMS 11.0 Å 切断不可 水溶性
DMP 9.2 Å 切断不可 水溶性
DMA 8.6 Å 切断不可 水溶性
DSG 7.7 Å 切断不可 水溶性

このように、相互作用解析では相互作用複合体の細胞内局在や反応特異性などからクロスリンカーを選択することになります。1回貫通型の膜タンパク質などではクロスリンカーがアクセスできる細胞外領域が小さく水溶性クロスリンカーでは架橋産物が得られない場合もありますので、水溶性やアーム長に関して異なる複数のクロスリンカーを併用して、段階的に特異性を高めていく場合もあります

質量分析計による相互作用パートナーの同定

相互作用解析におけるクロスリンカーの使用については、DSG, DSS, DSPおよびこれらの水溶性アナログなどさまざまなクロスリンカーが文献(1, 2)で紹介されています。

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図1 DSS (Non-Cleavable) の分子構造

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図2 DSP (Cleavable)の分子構造

例えば、DSSは還元剤で切断不可(Non-Cleavable)なクロスリンカー、DSPは還元剤で切断可能(Cleavable)なクロスリンカーの代表的な製品です。免疫共沈降後の還元SDS-PAGEではDSS架橋産物の架橋は切断されず相互作用複合体が維持されますが、DSP架橋産物は還元処理により架橋が切断されるため相互作用複合体は維持されません。SDS-PAGE後にバンドを切り出して酵素消化と質量分析計による解析を行う場合、Cleavableなクロスリンカーが使用されています。

一方で、SDS-PAGE上の分子量シフトから相互作用を確認するホモダイマー化の確認などではNon-Cleavableなクロスリンカーが使用されています。なお、弊社では数十種類のクロスリンカーをご用意していますが、製品の選択はCrosslinker Selection Guideでおこなうことができます。ここでは代表的なCleavableクロスリンカーのDSPに関してご紹介します

DSPについて

側鎖に一級アミンを持つアミノ酸については、DSPの反応基NHSエステルによる架橋反応で修飾が入るため質量が増加します。NHSエステルは主にリジン側鎖と反応しまが、アルギニン側鎖(グアニジル基)とは反応性が低く修飾はほとんど入りません。リジンやアルギニンの側鎖にDSPが結合した場合、還元アルキル化では、DSPスペーサーアーム内のジスルフィド結合が切断されてシステイン側鎖と同様にアルキル化されます。このリジン側鎖やアルギニン側鎖のアルキル化により、立体障害による消化効率の低下(ミスクリベッジの増加)が生じて、シーケンスカバレッジや同定ペプチド数に影響を受けることがあります。

その他、架橋反応による影響としては、免疫沈降の際に抗原部位への修飾や相互作用非特異的な架橋産物があげられます。これらの影響を最小限に抑えるために架橋反応の条件検討(例; 1mMを中心としたDSP添加濃度の検討や架橋反応時間の検討)をおこなったうえで、相互作用特異的な架橋産物が免疫共沈降で得られるような架橋条件(DSP添加濃度や架橋時間)で実験をすすめるなどの工夫が必要になることがあります。

DSPによるCrosslinked Co-IP MS

SEQUEST解析時に入力する精密質量の値と、指定すべきアミノ酸残基について

  • 還元後のDSPによる付加質量; 88.00 (モノアイソトピック質量)
  • 側鎖が修飾されるアミノ酸; リジン(その他、アルギニン、システイン、セリン、チロシンにも修飾が入る可能性があります。)

DSPが結合したアミノ酸側鎖のアルキル化について

DSPはスペーサーアーム内にジスルフィド結合を含みますので、修飾されたアミノ酸はシステイン同様に還元アルキル化を受けます。

DSPが結合したアミノ酸のトリプシン消化について

架橋反応ではDSPによる修飾を受けますので、高濃度で反応させた場合や長時間の架橋反応を行った場合、(特にリジンC末端側における)消化効率は低下します。リジン側鎖に関しては、DSP修飾によりミスクリベッジが上昇する可能性があり、ペプチド断片あたりのリジン数は増える傾向(2)にあります。通常、ミスクリベッジの設定は0-1程度だと思いますが、DSP架橋化タンパク質からのトリプシン消化物に関してはミスクリベッジの設定を緩くするなどが必要になるかもしれません。

さいごに

クロスリンカーを用いた相互作用解析では、得られた架橋産物がタンパク質相互作用に特異的かどうかを確認することが必要です。相互作用非特異的な産物は架橋試薬の濃度低下にともない消失することもありますが、細胞刺激の有無、遺伝子サイレンシングなど実験系にあわせた適当なコントロールをおくことも重要です。

参考文献

  1. Cell-surface processing of the metalloprotease pro-ADAMTS9 is influenced by the chaperone GRP94/gp96. J Biol Chem. 2010 Jan 1;285(1):197-205.
  2. Chemical cross-linking with thiol-cleavable reagents combined with differential mass spectrometric peptide mapping—A novel approach to assess intermolecular protein contacts. Protein Science ~2000, 9:1503–1518

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