正確な測定のために!イオンクロマトグラフィーにおける試料の前処理方法と注意点

正確な測定のために!イオンクロマトグラフィーにおける試料の前処理方法と注意点

はじめに

イオンクロマトグラフィー(IC)は水溶液試料中に含まれるイオン成分を測定します。試料が固体や気体の場合、まず試料を水溶液化する処理が必要です。また、試料溶液中にカラムやサプレッサーなどを劣化させる成分や、測定を妨害する成分が存在する場合は、これらの成分をあらかじめ除去する処理も必要です。

今回は、イオンクロマトグラフィーにおける前処理の方法、注意点などについてご紹介します。

イオンクロマトグラフィーにおける前処理

前処理が必要であると考えられる場合は、まず試料情報を詳細に集める必要があります。分析目的成分、試料の状態(ガス、液体、固形物…)など多くの情報を集めることで前処理でするべき選択肢も多くなり、分析方法の選択肢も増えます。イオンクロマトグラフィーにおける前処理は主に以下の手順に従って行います。

ステップI: 水溶液化
イオンクロマトグラフィーは基本的に水溶液試料を取り扱う分析法であるため、試料をあらかじめ水溶液にする必要があります。

ステップII: 劣化成分と妨害成分の除去
カラム、サプレッサーなどを劣化させる成分(劣化成分)と、分析種の分離検出を妨害するマトリックス成分(妨害成分)をあらかじめ除去します。

ステップIII: 濃度調整
適切な前処理を行った後、必要であれば精密分析をするための濃度調整をします。

ステップI: 水溶液化

さまざまな状態の試料を、まず最初に水溶液にします。図1に、その代表的なフロー図を示しています。

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図1 水溶液化のフロー図

ガス試料

ガス試料を捕集して液化する前処理は多くの環境分析、固体燃焼捕集分析で使用されています。このとき捕集効率や器具からの汚染を考慮して、最適な捕集方法を考えなければなりません。日本工業標準調査会のJISに定められた分析方法を参照して検討することをお勧めします。イオンクロマトグラフィーでよく使われる捕集方法には、吸収瓶法とフィルター捕集法があります。

吸収瓶法

ガス試料を吸収液に通してイオン成分を捕集する方法です。ガス捕集方法としては、もっとも多く用いられている前処理法です。吸収液に目的ガスを吸収できるものを選びます。たとえば、水溶性の高いガスの場合には超純水を吸収液としますが、水溶性の低いガスの場合には、過酸化水素水溶液などがよく用いられます。吸収液成分は測定を妨害することがあるため、あらかじめ吸収液の濃度や吸収液の妨害について検討する必要があります。

  • 対象試料例- 自動車排ガス、工業排ガス、室内雰囲気、クリーンルーム内雰囲気
フィルター捕集法

ガス試料をフィルターに通してイオン成分を吸着して捕集する方法です。トラップ効率を上げるために、フィルターに試薬を含浸させることがあります。吸着させた成分を超純水などで抽出してから測定するので、抽出する時は不純物の混入に注意します。

  • 対象試料例-大気、霧、粉塵、エアロゾル

液体試料

水溶液試料

基本的に、水に溶けている場合は粒子をろ過してから測定が可能です。一般的に孔径0.45 μm以下のメンブランフィルターでの処理をお勧めします。

  • 対象試料例-水道水、河川水、雨水、排水など
非水溶性試料

試料が非水系溶媒や油の場合、超純水や希薄な酸またはアルカリ溶液を加え、振とうします。測定目的イオンを水層側に抽出し、その水層部を測定に用います。遠心分離は、生体液など粘性の高い試料の分離を促進させるのに効果的です。手順としては、試料を遠心分離した後、上澄液を測定します。水に溶解しない非水溶性溶剤はないので、水層部または上澄液は逆相系固相抽出カートリッジなどに通して、非水系溶剤を除去してから測定することをお勧めします。

  • 対象試料例-非水溶系溶媒、溶剤、油

固形物試料

表面付着イオン種成分

非水溶性の固体試料の表面に付着しているイオン成分を測定する場合は、水抽出を行います。十分に洗浄したポリエチレンの袋に試料と超純水を入れて密封し、必要に応じて加温または超音波抽出をします。ポリエチレンの袋の代わりに、テフロン™で内部表面をコーティングした容器を用いることもあります。固形物表面付着イオン種成分の分析は微量分析を求められることが多く、特に電子部品などの表面イオンを測定する場合は、超高感度分析が求められ、純水のグレード、容器、作業環境など多くの前処理工程で注意が必要です。

  • 対象試料例-高分子材、電子部品、非溶解性物質
超純水に溶解

試料が水溶液性の場合は、超純水に溶解させます。濃度計算の際に重量/重量に換算する必要があるため、溶解処理時の試料重量や溶解液の容積を正確に記録しておきます。

  • 対象試料例-粉末試薬、水溶性の粉末など
有機溶媒に溶解

試料が水溶液でなく有機溶媒に溶ける場合は、まず最初に、カラムに導入可能な有機溶媒に溶かします。カラムの種類によっては、数μL程度であればアセトニトリルやメタノール、エタノールを直接導入することも可能です。水と分離するような非極性有機溶媒(ベンゼンやトルエンなど)は、カラムに直接導入することができないため、前述の「非水溶性試料」の手順により液液抽出をし、水層を測定試料とします。

  • 対象試料例-生体試料、高分子材、顔料など
含水試料の粉砕処理と抽出

野菜や果物などのように水分を含んでいる試料の場合、すりつぶして均質化します。その後、遠心分離やフィルターろ過などで固形成分を取り除き、上澄液やろ過液を測定します。

  • 対象試料例-野菜、果物、ハムなど
燃焼分解

プラスチックや有機物などのハロゲンや硫黄などの測定には、燃焼分解という方法があります。試料を燃焼装置などによってハロゲンガスや、硫黄酸性ガスに燃焼分解させ、過酸化水素水溶液で捕集し測定試料とします。

  • 対象試料例-高分子材、錠剤など

ステップII: 劣化成分と妨害成分の除去

劣化成分

劣化成分には主に微粒子、可溶性高分子や、金属イオン、有機溶媒などがあります。これらの成分は前処理によって除去し、試料をクリーンアップしてから分析することで、高い精度の結果を得ることができ、カラムやサプレッサーの寿命を延ばす最適な方法です。表1に劣化成分により生じた不具合およびその除去方法をまとめています。

表1 劣化成分の種類および除去方法
劣化成分 原因と症状 除去方法
微粒子 配管のつまり
カラムのつまり
孔径0.45 μm以下のメンブランフィルターでろ過
可溶性高分子 界面活性剤 イオン交換体に吸着
保持時間が変わる
固相抽出(逆相系)
タンパク質 イオン交換体に吸着
ピーク形状の異常、不分離、ピーク割れ
変性させて不溶化して遠心分離
固相抽出
限外ろ過
油分 イオン交換体に吸着
ピーク形状の異常
固相抽出(逆相系)
染料 イオン交換体に吸着
保持時間が変わる
固相抽出(逆相系)
金属イオン りん酸定量値の異常
カラム、サプレッサーの劣化
アルカリ沈殿
固相抽出(イオン交換樹脂、錯形成剤)
有機溶媒 イオン交換体の破損
保持時間の急な変化
極性溶媒: カラム取扱説明書参照
無極性溶媒: 液液抽出および固相抽出
微粒子

目視で浮遊物が確認できなくても、微粒子の不溶成分が存在することが多く、装置配管やカラムやサプレッサーのつまりの原因になるため、必ず孔径0.45 μm以下のメンブランフィルターで試料ろ過を行います。このとき、フィルターからの汚染を防ぐため、フィルターの材質に注意が必要です。また、フィルター自体を超純水で十分に洗浄します。

可溶性高分子

主に界面活性剤、タンパク質、油分、染料などがあります。これらの成分はカラム内のイオン交換体に強く吸着され、目的成分の保持時間が短くなり、ピークが崩れます。図2に示したように、可溶性高分子であるフミン酸を含む試料を10 μLで20回導入した後、各成分の保持時間が20%以上も短くなり、ピーク形状が悪くなったことがわかります。

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図2 可溶性高分子の影響。分析条件 カラム: Thermo Scientific™ Dionex™ IonPac™ AG17/AS17、カラム温度: 30℃、溶離液: 15 mmol/L NaOH、流量: 1.0 mL/min、検出器: 電気伝導度(サプレッサー使用)、試料注入量: 10 μL

金属イオン

溶離液に混ぜると沈殿が生成する金属イオンがあります。これらの成分を含んだ試料を直接導入すると、配管やカラムやサプレッサーのつまりの原因となるためあらかじめ除去することが必要です。また金属イオンと形成して不解離な状態になるような成分(りん酸イオンなど)を測定する場合は、感度が低下することがあるため金属イオンの除去を行います。

有機溶媒

有機溶媒の種類にもよりますが、直接導入するとイオン交換体が膨潤、または収縮してカラムが壊れることがあります。非極性有機溶媒(ベンゼンやトルエンなど)の場合、液液抽出したのち、逆相カートリッジを通過させる必要があります。極性有機溶媒の場合、数μL程度であればアセトニトリルやメタノール、エタノールを直接導入することも可能です。

妨害成分

分析種の分離や検出に影響をおよぼす場合、測定を妨害するような成分は取り除く必要があります。代表的な試料として海水があります。海水中の陰イオン分析では、高濃度の塩化物イオンの影響で他の陰イオンが測定できないことがあります。カラムやサプレッサーが劣化することはありませんが、高濃度に含まれる成分ピーク前後に溶出するイオン成分に、強く影響が見られます。

ステップIII: 濃度調整

適切な前処理を行った試料は、精密分析をするための濃度調整をします。イオンクロマトグラフィーでは試料中の目的イオン種成分を定量するときに、外部検量線法を採用しています。検量線はイオンの種類や溶離液の種類によって、直線性の範囲が異なります。多くのイオン種成分では直線になり難い成分ばかりで、直線性の範囲も狭いものばかりです。精密分析するためには、できるだけ検量線の範囲を狭くして、試料測定の際の応答値がその範囲に入るように調整をする必要があります。

希釈

測定成分の濃度が高い場合、検量線の直線範囲以内に試料を希釈する必要があります。いわゆる希釈前処理です。また、測定成分の濃度が適正でも、妨害成分(マトリックス)が高い場合、希釈前処理は有効な方法です。カラムのイオン交換容量は固定されており、高濃度マトリックスによりイオン交換体の交換基が塞がれ、イオン交換能が一時的に低下して分離不全を起こすことがあります。このマトリックス濃度を下げるために希釈前処理が必要です。

濃縮

試料中の目的イオン成分が極低濃度である場合(μg/Lレベル)、濃縮導入法を用いて応答値を高めます。図3に示したように、試料ループの代わりに濃縮カラムを導入バルブに取り付けます。試料導入用ポンプを用いて一定量の試料を濃縮カラムに導入し、イオン成分を濃縮させてから分析カラムを用いて測定します。10 mL濃縮導入によって0.1 ~ 0.5 μg/Lの陰イオンを感度よく測定できます(図4)。

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図3 濃縮導入法の配管

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図4 μg/L レベル標準液の濃縮分析例。分析条件 カラム: Dionex IonPac AS17-C/AG17-C、溶離液: KOHグラジエント、流量: 1.0 mL/min、検出器: 電気伝導度(サプレッサー使用)、炭酸除去デバイスCRD使用、試料濃縮量: 10 mL

固相抽出

表1で示しているように、劣化成分と妨害成分を取り除くため固相抽出カートリッジがよく使われています。固相抽出カートリッジの使用方法は二通りあります。除去成分を保持して目的イオン種成分を通過させて分離除去する方法と、目的イオン種を保持し除去成分を通過排出後に溶離溶媒で目的イオン種成分を濃縮回収する方法です。イオンクロマトグラフィーでは、一般的に前方法を使用します。後方法は液体クロマトグラフ法での前処理に用いる固相抽出方法で、イオンクロマトグラフィーに使われると、溶離剤試薬そのものが今度は妨害成分になってしまうため使用しません。固相抽出カートリッジに充填された充填剤の種類によって使用目的が分かれているので、除去成分と測定イオン種成分を考慮しながら選択します。表2に弊社の固相抽出カートリッジを示します。Thermo Scientific Dionex OnGuard™ IIはオフラインで使用するタイプで、Thermo Scientific Dionex InGuard™はオンラインで使用するタイプです。

表2 弊社の固相抽出カートリッジ
種類 充填剤 主な用途 OnGuard InGuard
A 重炭酸イオン型、陰イオン交換 中和、陰イオンの除去
H 水素イオン型、陽イオン交換 アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属の除去、中和
Na ナトリウムイオン型、陽イオン交換 アルカリ土類金属、遷移金属の除去(pH変化なし)
OnGuard II Ag使用時に亜硝酸回収率を維持したい場合
M アンモニウム型、イミノジ酢酸 遷移金属の濃縮/除去
P ポリビニル、ピロリドン フェノール、アゾ色素、フミン酸の除去
RP ポリジビニル、ベンゼン 芳香族染料、炭化水素、界面活性剤、高級脂肪酸などの除去
HRP 親水性、ジビニルベンゼン 疎水性物質、アゾ色素およびシアノ基を持つ物質の除去
Na/HRP 二官能基性 Ca2+(Na) と脂質(HRP) を乳製品から除去
Ag 銀型陽イオン交換 ハロゲン、CrO42-、CN、S2-、SCNなどの除去、OnGuard II H との併用を推奨
Ba バリウムイオン型陽、イオン交換 硫酸の除去、OnGuard II Ag、H との併用を推奨
Ag/H Ag/H 樹脂の2 層型 ハロゲンの除去
Ba/Ag/H Ba/Ag/H 樹脂の3 層型 硫酸とハロゲンの除去

前処理の際の注意点

前処理によって不純物が混入することがあるため、操作を行う際以下のことに注意します。水は、比抵抗値が18 MΩ以上で0.22 μmのろ過膜を通した精製直後の超純水を用います。試薬は、高純度な試薬である特級試薬など、イオンクロマトグラフ用として販売されている試薬の使用を推奨します。前処理操作によってイオン成分が試料中に混入しないように、前処理操作時に手袋を着用したり、前処理に用いた器具類を超純水で十分に洗浄するなど注意して行います。また、ろ過に使用するフィルターや前処理カートリッジなどにもイオンが混入する可能性があるため、あらかじめ超純水などで洗浄してから使用します。

前処理の妥当性を標準添加時の回収率や、同じ試料を数回処理したときの再現性などで確認します。また、前処理によるイオンの混入の有無を確認するために、必ずブランクの測定を行ってください。

未知試料の確認

試料内容を把握していれば前処理の必要性の有無がわかりますが、試料の情報がない場合は、図5に示すフローに従い試料を確認しながら前処理を検討します。試料の色、透明度、臭いなどの状態から共存するマトリックスが推測でき、また溶離液と混ぜて確認することによって、試料導入後システムの中で起こりうることが予測できます。最善な前処理によって適切な測定が実現できます。

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図5 未知試料の確認

まとめ

イオンクロマトグラフィーを用いたイオン分析は、主に水溶液化→劣化・妨害成分の除去→濃度調整のステップにより前処理を行います。その前処理方法の検討に当たっては、試料組成の把握、目的成分の明確化、前処理による影響の予測などが不可欠です。多様な試料中の分析種をより正確に測定するためには、分析手法に合わせた前処理の確立はとても重要です。

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