イオン交換分離の原理と分離に影響する4つの因子とは?

イオン交換分離の原理と分離に影響する4つの因子とは?

イオンクロマトグラフィーの分離法として主にイオン交換が用いられていますが、原理がわかると測定目的に合った分離の調節やカラムの選択に役立ちます。今回は、イオン交換分離の原理の説明とイオン交換分離に影響する4つの因子をご紹介します。

イオン交換分離の原理

イオン交換分離は、イオン交換基と電解質溶液との間で、イオン成分が吸着と脱離を繰り返すことによって起こります。陰イオン交換分離の場合、たとえば、第4級アンモニウム基が修飾されたイオン交換体が充填されたカラムと、炭酸ナトリウムなどのアルカリ性溶液の溶離液を用いるとします。カラム内では、溶離液中の炭酸イオン(CO32-) がイオン交換基上で吸着と脱離を繰り返しています(図1-1)。そこへ、測定イオン、たとえば、塩化物イオン(Cl)と硫酸イオン(SO42-) が導入されると、CO32-に代わってClとSO42-がイオン交換基と吸着します(図1-2)。溶離液が連続的に流れているので、いったん吸着したClとSO42-は順次CO32-に置き換えられます(図1-3)。脱離したClとSO42-は次のイオン交換基に吸着し、またCO32-に置き換えられ、また吸着し…と吸着と脱離を繰り返して、最後にはカラムから溶出されます。

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図1 陰イオン交換原理図

吸着と脱離を繰り返す際に分離が起こります。分離は、ClとSO42-のイオン交換基や溶離液との親和性の違いによって起こります。分離のイメージを図2 に示します。一般に、電荷数の大きいイオンほどイオン交換基との静電的相互作用が大きいため、強く吸着します。また、イオンの疎水性の影響も大きく、疎水性が高い場合は保持が強くなります。イオン半径の大きいイオンは、半径の小さいイオンに比べイオン交換基に強く吸着します。このため、1 価の陰イオンのイオン交換体への吸着は、F<Cl<Br<I、1 価の陽イオンはLi+<Na+<K+<Rb+<Cs+の順で強く保持されます。イオン交換分離では、いくつかの作用が同時に働きますが、ある程度は分離の推測が可能で、コンピューターでシミュレーションできます。しかし、実際は用いるカラム、溶離液、温度などにより分離は大きく変わります。

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図2 カラム内での分離の模式図

イオン交換分離に影響する4つの因子

溶離液の濃度と種類

陰イオン溶離液中の炭酸イオン(CO32-)や水酸化物イオン(OH)、陽イオン溶離液中の水素イオン(H+)などを溶離剤イオンと言います。イオン交換分離では、イオン交換基上における測定イオンと溶離剤イオンとの競合により分離が行われます。溶離剤イオン濃度(溶離液濃度)が低くなると、測定イオンと溶離剤イオンとの競合が小さくなり、測定イオンがイオン交換基に保持される時間が長くなるため溶出は遅くなります(図3)。特に多価の測定イオンはイオン交換基に対する親和性が強いため、保持時間が極端に長くなる傾向があります。溶離液濃度と保持の大きさを示すキャパシティーファクターの関係(図4)を見ると、測定イオンの価数が高いほど傾きが大きくなっていることがわかります。

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図3 溶離液濃度による溶出時間の変化。カラム:Dionex™ IonPac™ AS19、溶離液:KOH(1.0 mL/min)

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図4 溶離液濃度とキャパシティーファクター(K’)の関係。k’=(tR-t0)/t0、tR:ピークの保持時間、t0:ウォーターディップ溶出時間、条件は図3と同じ

2 価の溶離剤イオンは、1 価に比べて測定イオンをイオン交換基から速く脱離させることができるため、溶出を速くできます。陰イオン溶離液の溶出力は、Na2CO3>NaHCO3>NaOH(KOH)の順になります(図5)。陽イオン溶離液の溶出力は、H2SO4>メタンスルホン酸=HCl の順になります(HCl は電解型サプレッサーでは使用できませんのでご注意ください)。また、溶離液のpH を変化させると、多段階解離しているイオン(りん酸など)の溶出位置を大きく変えることができます(図6)。

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図5 溶離液の種類と溶出時間の違い。カラム:Dionex IonPac AS12A、溶離液:各4 mmol/L(1.2 mL/min)

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図6 溶離液pH とキャパシティーファクター(K’)の関係。カラム:Dionex IonPac AS22、溶離液:4.6 mmol/L Na2CO3(1.2 mL/min)、NaHCO3でpH調整。

カラム温度

カラム温度を変化させると、分離平衡、拡散速度、解離度、溶離液の粘性などの変化により、測定イオンの保持時間が変化します。温度の影響は測定イオン種によって異なり、カラムや溶離液によっても変わります。一般的に温度を上げると溶離液の粘性が下がり、イオン交換基上での溶離剤イオンと測定イオンの交換速度が速くなるため溶出が速くなる傾向があります。一方で、硫酸イオンのように水和していると考えられるイオンは、温度上昇に伴い水和状態が不安定になることで、イオン交換基への親和性が増大し、溶出が遅くなると考えられています。図7にカラムや溶離液が異なる条件での、温度と保持時間の関係を示します。1価のイオンに対して、2、3 価の硫酸イオンやりん酸イオンは保持時間の変化が大きいことがわかります。変化の程度も、溶離液条件によって大きく変わることがわかります。

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図7 温度と陰イオンの保持時間(k’; キャパシティーファクター)の関係

カラム温度の変化により測定イオンによっては保持挙動が変わることから、温度を使って分離状態を調節できます。図8 にDionex™ IonPac™ CS16カラムを用いたときの、陽イオンとエタノールアミンの分離例を示します。このカラムでは、温度を上げることにより、アンモニウムイオンとモノエタノールアミン、カリウムイオンとトリエタノールアミンの分離を改善することが可能です(注:カラム温度を40℃以上にする場合は、取扱説明書をご参照の上サプレッサーに高温の溶離液が入らないようにしてください)。

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図8 陽イオンとエタノールアミンの分離。カラム:Dionex IonPac CS16、溶離液:30 mmol/L メタンスルホン酸(1.0 mL/min)

イオン交換基の疎水性

イオン交換は、主に測定イオンと溶離剤イオンのイオン交換基上での静電的相互作用によって分離が行われていますが、疎水性相互作用も分離に影響を与えます。

疎水性は、カラム基材の影響をもっとも強く受けますが、基材が同じであればイオン交換基の種類で変わります。たとえば、エチルビニルベンゼン/ジビニルベンゼン共重合体の基材は、メタクリレート系やポリビニルアルコール系よりも非常に疎水性が高いことが知られています。イオン交換基の例では、陰イオン交換に用いられるアルカノールアミンはアルキルアミンよりも疎水性が低く、分離の調整がしやすいです。基材自体の疎水性が高くても、イオン交換基を導入する前に基材をレイヤーで覆って疎水性を緩和するといった技術もあり、近年では疎水性の低いカラムが多く用いられているようです。

疎水性が比較的高いイオン成分(ヨウ化物イオン、チオシアンイオン、過塩素酸イオンなど)は保持時間も長く、テーリング気味のピークですが、疎水性の低いカラムを用いると疎水性相互作用が小さくなるため、保持時間の短縮やピーク形状の改善が行えます(図9)。

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図9 カラムの疎水性と分離の違い

溶離液の疎水性を変化させることによっても分離を調整できます。溶離液の疎水性はアセトニトリルなどの有機溶媒を添加することによって変えます。図10 は、溶離液に添加したアセトニトリルの濃度による、一般的な陰イオンのキャパシティーファクター(k’)の変化を示したものです。アセトニトリルの濃度の増加により、臭化物イオン、硝酸イオンで保持時間の短縮が見られ、りん酸および硫酸イオンで保持時間の増加が見られます。疎水性がこれらのイオンよりも高い成分については、さらに顕著な効果があります。なお、溶離液へ有機溶媒を添加する方法については、適用できないカラムや、サプレッサーの使用モードの制限がありますので、取扱説明書をご確認ください。測定目的成分に応じて、カラムまたは溶離液の疎水性を選択/調節することで、分離の最適化やピーク形状の改善が可能です。

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図10 有機溶媒添加による保持の変化。カラム:Dionex™ IonPac™ AS12A、溶離液: 2.7 mmol/L Na2CO3、0.3 mmol/L NaHCO3、アセトニトリル、流量: 1.2 mL/min

溶離液の流量

溶離液の流量を変えると、溶出時間は両対数グラフにおいて直線的に変化します。このとき、ピークの溶出順序は変わりません。つまり、溶離液流量の変化では分離の改善はあまり期待できません。図11 に示した流量2.0 mL/min(A)、0.5 mL/min(B)のときのクロマトグラムで、流量の少ない(B)の分離が一見良いようですが、(A)の時間軸を引き伸ばすと(B)の分離とあまり変わらないことがわかります。

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図11 流量が異なるときのクロマトグラムの違い

一方で、流量を少なくすると測定イオンが電気伝導度セル内をゆっくり通過するため、ピーク面積が大きくなります(図12)。今回用いた条件では、流量が2.0 mL/min のときの面積値は0.5mL/min のときの3.6 倍でした。流量を少なくするとピーク幅も大きくなるため、面積値が大きくなっても感度の目安となるピーク高さは同様の割合では増加しませんが、それでも大きくなります(図13)。今回用いた条件では流量0.5 mL/min のときは2.0mL/min のときの1.2 倍のピーク高さでした(図11)。保持時間が問題にならなければ、流量を少なくすることで感度を改善することが可能と言えます。一般に、カラムは適切な流量範囲(または圧力範囲)が決まっており、その範囲で使用しなければなりません。流量を変える場合は、カラムの取扱説明書をご確認ください。

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図12 溶離液流量とピーク面積の関係。分析条件は図11と同じ、流量: 0.3 ~2.0 mL/min

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図13 溶離液流量とピーク高さの関係。分析条件は図11と同じ、流量: 0.3 ~2.0 mL/min

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