界面活性剤を用いたタンパク質抽出|知っておきたい!タンパク質実験あれこれ 第1回

界面活性剤を用いたタンパク質抽出|知っておきたい!タンパク質実験あれこれ 第1回

第1回目のテーマは「界面活性剤を用いたタンパク質抽出」と題して、タンパク質抽出における界面活性剤の利用方法をご紹介します!

タンパク質の抽出をする前に…細胞を破砕する2つの方法

一般的にタンパク質の精製は、試料からの総タンパク質の抽出(溶解)、目的タンパク質の分離・濃縮(アフィニティ精製)、干渉物質や夾雑物の除去(試料の調製やクリーンアップ)の順で行われます。細胞を破壊・溶解してタンパク質を抽出する操作は最終的に得られるタンパク質の収量や品質に影響するため、タンパク質精製における最初の重要なステップになります。細胞の破壊には、物理的手法や界面活性剤をベースとしたさまざまな手法が利用されています。

物理的手法には、ブレンダーやミキサーあるいはホモジナイザーを用いた機械的破砕法のほか超音波を用いた細胞破砕法や乳鉢・乳棒による破砕法などが利用されています。しかし、物理的手法による細胞破壊では、細胞破壊の際にサンプル中で局所的なタンパク質の熱変性が生じることがありタンパク質の変性や凝集を誘発してしまうという潜在的な問題があります。またホモジナイゼーションや乳鉢・乳棒を用いたすり潰し操作は、再現性が得にくく操作ごとに破砕力が異なってしまうため、抽出される細胞内成分に差が生じることがあります。さらに物理的手法で細胞を破壊するためにはフレンチプレスやソニケーターのような高価な機器が必要になります。

一方、界面活性剤をベースとした手法では、簡便で低コストなだけでなく、マイルドな条件で細胞を溶解できるうえ、実験間または実験者間の再現性が得やすいという利点があります。ここでは、界面活性剤をベースとした細胞ライセートや細胞分画とそのライセートの調製方法について基本技術を紹介します。

界面活性剤による細胞溶解の原理

細胞や細胞小器官は生体膜によって内側と外側に区分されています。生体膜は主にリン脂質とタンパク質から構成されており、リン脂質が疎水性テールを互いに向き合わせた二重構造(脂質二重層)を形成し、その層の中にタンパク質が組み込まれています。界面活性剤はこのリン脂質に類似した性質を有しており、タンパク質の疎水領域に結合します。界面活性剤は脂質-脂質間やタンパク質-脂質間の相互作用を破壊するため、細胞を包む脂質二重層の破壊に利用できます。界面活性剤は臨界ミセル濃度(CMC: critical micelle concentration)と呼ばれる濃度以上において自己会合しますが、通常このCMC濃度以上の界面活性剤を添加することによって細胞膜を界面活性剤で飽和し、細胞膜の破壊を誘導します。

細胞溶解に用いる界面活性剤の種類

界面活性剤には極性があり、親水性のヘッドグループと非極性で疎水性のテールグループから構成されています。ひとことで界面活性剤と言ってもさまざまな種類が存在し、特にヘッドグループの性質によってイオン性(陽イオン性または陰イオン性)、非イオン性、または両イオン性に大きく分類されます。各界面活性剤の性質は、そのヘッドグループとテールグループの特性(親水疎水性バランス, 鎖長, かさ高さ)によって決まります。

細胞の溶解に用いる界面活性剤の種類は、目的とするアプリケーションを考慮して選択する必要があります。膜タンパク質の機能やタンパク質間相互作用の状態を維持する必要がある場合には、一般的にイオン性の界面活性剤よりもマイルドでタンパク質変性に寄与しにくいことが知られている非イオン性または両イオン性の界面活性剤を使います。具体的には両イオン性界面活性剤のCHAPSや非イオン性界面活性剤のTriton Xのシリーズがよく使用されています。

一方、タンパク質の変性・失活が問題にならない場合や変性が積極的に必要になる場合には、基本的に可溶化作用が強くタンパク質を変性・失活させる傾向が強いイオン性界面活性剤を使います。例えば陰イオン性のSDSはきわめて疎水性の強いタンパク質についても可溶化が可能で、タンパク質溶液に加えてボイルすることでタンパク質を確実に変性させることができ、SDS-PAGEやウェスタンブロッティングを行う場合に有用です。タンパク質変性作用が比較的少ないイオン性界面活性剤は数種類しか存在せず、コール酸ナトリウムやデオキシコール酸ナトリウムがよく知られています。

界面活性剤の選択には細胞の種類も考慮する必要があります。動物、植物、菌類、細菌類ではそれぞれ細胞壁の有無や細胞膜の構造に違いがあるため至適条件が異なります。動物の組織は細胞が高密度に集まった複雑な構造をしているため、一般的には界面活性剤だけではなく機械を併用した細胞破砕を行います。 さらに界面活性剤自体の種類だけでなく、併用するバッファーのpHや塩濃度のほかに温度についても合わせて至適条件を検討する必要があります。また細胞溶解に用いた界面活性剤を除去する必要がある場合は、透析または脱塩や限外ろ過での除去が可能な界面活性剤を選択する必要があります。

細胞小器官ごとの分画方法

目的タンパク質の生化学的な解析を効率よく行うためには、精製の早い段階で不要なタンパク質をできるだけ除去して目的タンパク質を濃縮することが有効です。細胞を分画して特定の細胞小器官を単離する技術や膜タンパク質画分を効率よく調製する技術が利用されます。界面活性剤はこのような細胞分画にも利用できます。

膜タンパク質

真核生物のタンパク質のうち約30%は膜タンパク質であることが知られており、受容体やイオンチャンネルなど細胞応答や輸送に関わる重要なタンパク質が数多く存在していることから、創薬研究における主要なターゲットになっています。しかし膜タンパク質は基本的に細胞質タンパク質に比べて分子サイズが大きいだけでなく、疎水性や塩基性のタンパク質が多いため一般的に可溶化状態でタンパク質を抽出することが難しいとされています。利用する界面活性剤は、会合している脂質と特性が類似した界面活性剤を選択するか経験的な知見に基づいて選択するか、あるいは複数の界面活性を用いて可溶化条件を実際にスクリーニングしてから選択することもあります。

膜タンパク質の可溶化だけでなく、親水性タンパク質と膜タンパク質との相分離に使用できるユニークな界面活性剤があります。Triton X-114はその代表例で、0℃ではミセルを形成した均一な溶液ですが、20℃(cloud point: 曇り点)を超えると溶液が濁り、水相と界面活性剤の相に分離します。相の分離は温度が上昇につれて進行して2つの透明な相を形成します。このとき親水性タンパク質は水相に、膜タンパク質のような疎水性タンパク質は界面活性剤の相に分配されます。

Mem-PER Eukaryotic Membrane Protein Extraction Reagent Kit (製品コード89826)はこの分配原理を利用して膜タンパク質を抽出するためのキットです。Mem-PER Kitでは弊社独自の界面活性剤を用いて哺乳類細胞を穏やかに溶解したあと、Triton X-114を用いて膜タンパク質を回収します。なお、Mem-PER Kitはガラスビーズを併用することで、酵母細胞の分画も可能となります。

Mem-PER Kitの方法では、しかしながら、回収した膜タンパク質画分にはTriton X-114の持ち込みが起こってしまいます。Triton X-114は下流の実験(タンパク質定量や電気泳動など)に影響を及ぼすため、希釈や除去操作が必要になります。

Mem-PER™ Plus Membrane Protein Extraction Kit(製品コード89842)は、Mem-PER Kit (製品コード89826)に比べて膜タンパク質の抽出効率を高めただけではなく、BCA Protein AssayPierce 660 nm Protein Assayのようなタンパク質定量や一般的なSDS-PAGEにも適合するように改良された製品です。また、Mem-PER Kitのような相分離が不要で操作性も向上しています。

核タンパク質

NE-PER Nuclear and Cytoplasmic Extraction Reagentsは、核タンパク質と細胞タンパク質を別々に抽出するためのキットです。凍結融解、機械を使ったホモジナイゼーション、長時間の遠心、透析といった煩雑な操作は必要ありません。キットに添付の試薬(CER IとCER II)で処理して細胞膜を破壊後、遠心上清に細胞質タンパク質画分を得た後、細胞核を含んだ沈殿を高塩濃度のNER試薬で処理することで核タンパク質を抽出します。細胞質抽出画分と核抽出画分のクロスコンタミネーションは10%以下です(図)。抽出後のサンプルは、ゲルシフトアッセイ(EMSA)、レポーターアッセイ、ウェスタンブロッティング、酵素アッセイ、BCA Protein Assayなど多くのアプリケーションに使用できます。

各画分のクロスコンタミネーションの確認A

図. 各画分のクロスコンタミネーションの確認 (A) C6細胞( β-Galactosidaseを発現しているラットグリア細胞)の核画分および細胞質画分のβ-Galactosidase活性を測定した。本来発現・機能している細胞質での活性が高いことが分かる。

 

各画分のクロスコンタミネーションの確認B

(B) 核画分および細胞質画分について、核に局在して働いているDNAポリメラーゼ活性をprimed M13 一本鎖DNAを用いて測定し、DNA合成における[32P]-dCMPの取込量を測定した。

 

ミトコンドリアの単離とタンパク質抽出

一般的にミトコンドリアの単離は、試料ごとにダウンス型ホモジナイザーによる処理が必要で手間のかかる作業です。Mitochondria Isolation Kit for Cultured Mammalian Cellsは、特別な機器を使用せずにミトコンドリアの単離を行うための試薬で、複数試料の同時処理が可能です。弊社独自の試薬を用いて哺乳類培養細胞のペレットを穏やかに可溶化し、損傷を最小限に留めてミトコンドリアを単離できます。ダウンス型ホモジナイザーを併用することで、試薬のみの方法と比べてミトコンドリアの回収量を増加させることも可能です。ミトコンドリア画分と細胞質画分の分離には卓上マイクロ遠心機による分画遠心法を用い、細胞を採集後40分以内に終了できます。単離後のミトコンドリアは、アポトーシス、シグナル伝達、代謝に関する研究などミトコンドリアのプロテオミクス研究に使用できます。

最後に

細胞を破壊・溶解してタンパク質を抽出する操作はタンパク質精製の最初の重要なステップです。今回は界面活性剤を用いた手法を紹介しましたが、他にもカオトロピックイオン(SCN, CIO4 など)が利用されることもあります。いずれの場合でも対象となる細胞の種類や抽出後のタンパク質をどういったアプリケーションに使用するかを考慮し、併用するバッファーのpH、塩濃度、抽出温度についても合わせて至適条件を検討する必要があります。そのため界面活性剤自体の性質を知ることが重要になります!

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