これでもう失敗しない!リアルタイムPCRに失敗する4つの問題点と解決策をご紹介

これでもう失敗しない!リアルタイムPCRに失敗する4つの問題点と解決策をご紹介

理想的なリアルタイムPCR解析を実行するには、最適化によって反応のすべてのパラメータをきめ細かく調整し、正確な結果が確実に得られるようにすることが必要です。新しい遺伝子の研究を始める場合、または解析のパラメータを変更する場合には常に、必要なすべての反応調整を含む解析の検証を行う必要があります。具体的にはプライマー濃度、サーマルサイクリングの温度および時間の調整、そして標準曲線評価によるパラメータの確認などです。

最適化には時間がかかりますが、時間をかけるだけの価値はあります。なぜなら、最適化は解析の最高の感度とダイナミックレンジ、高い効率(高精度につながります)および非常に優れた再現性の獲得につながるからです。これらの因子はすべてデータの信頼度につながり、最終的には研究コミュニティーに受け入れられ得る実験結果につながります。

リアルタイムPCRのトラブルシューティングは、非常に困難であるように感じられるかもしれません。しかし、正しい解析デザインが考慮されていると仮定した場合、一般的なリアルタイムPCRの問題点は、以下の4つの大きな範囲にグループ分けすることが可能です。

  • プライマーダイマーの形成
  • プライマーおよびプローブの保存
  • リアルタイムPCR阻害および反応効率の低下
  • ソフトウェア解析設定

プライマーダイマーの形成

プライマーダイマーは、プライマーペアの間に部分的な配列の相同性が存在する場合に形成されます。PCR反応中にプライマー同士がアニールすると、Taq DNAポリメラーゼによる伸長が起こり、本来のプライマーよりもサイズが大きく、しかもサイクルが進むにつれて誤ったアニーリングをより起こしやすくなる産物を生成する可能性があります。プライマーの長さによっては、プライマー自体が折り畳まれることによりテンプレートとの競合環境を作り出してしまう可能性もあります。特にマルチプレックス反応のような複雑な反応系では、これらの望ましくない反応が発生する機会が増加します。

プライマーダイマーの形成は、リアルタイムPCRのデザインおよび検証において解決しなくてはならない最も一般的な問題の一つですが、リアルタイムPCR反応からこれらの問題を取り除く方法は多数存在します。プライマーダイマーの問題をどのようにして解決するかをご紹介する前に、先ずなぜダイマー形成を最小限に抑えることあるいは低減させることが必要であるかを理解することが重要です。

プライマーダイマーに起因する問題

プライマーダイマーが反応に与える影響は、使用するケミストリにより大きく異なります。蛍光プローブを使用する反応はプライマーダイマーによる影響をあまり受けない傾向にありますが、これはプライマーダイマー領域におけるプローブのアニーリングおよび切断がほとんど起こらないためです。この場合には、プライマーへの競合が考慮すべき主要因子となります。一方、二本鎖DNA結合色素を利用する反応は、プライマーダイマーが存在しない条件に大きく依存していますが、これは色素がプライマーダイマーに非特異的に結合する可能性があり、その蛍光が反応中にモニターされる蛍光量に影響を及ぼしてしまうためです。これによってCtがシフトし、解析結果を歪めてしまいます。

外来性のシグナルは最も重要な因子ですが、反応ウェル内の競合も反応効率に直接影響を及ぼします。前述したように、反応効率が低いとダイナミックレンジが狭められ、結果として感度が低下します。

そもそも二量体形成が起こらないようにするために、プライマーデザインの段階において簡単な予防策を講じることが最良の方法です。そのための無料ツールがいくつか入手可能です。そのようなツールの一例がAutoDimer(米国国立標準技術研究所のP.M. Vallone 著)で、プライマーペアの配列を解析し、理論的に二量体形成を起こし易いプアリマーペアに警告を出します。

バイオインフォマティクスを利用したプライマーデザインにより、二量体形成の可能性を低減させることが可能ですが、二量体形成を実験的にモニターすることはやはり必要です。

プライマーダイマーの有無の決定

ゲル電気泳動法によりプライマーダイマーを目視で確認することができます。プライマーダイマーは、通常100塩基対よりも短いサイズの広がったバンドとして確認できます(図1)。PCR反応においては、ダイマー形成とテンプレートのアニーリングおよび伸長が競合します。テンプレートが減少するにつれて、プライマーダイマーが増幅しやすくなります。

ゲル電気泳動法を唯一の検証方法として使用することの欠点は、感度がナノグラム領域であるため結果が不確実になる可能性があることです。ゲル電気泳動法の長所は、温度解離曲線(融解曲線)データが存在する場合、反応産物のサイズの把握が全体的解釈する際に有用となることです。

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図1 アガロースゲル解析によるプライマーダイマーの確認。DNAサンプルを段階希釈し、サーマルサイクリング反応を行いました。終了後の反応液を等量ずつアガロースゲル電気泳動に流しました。プライマーダイマーは100bp未満の領域の広がったバンドとして確認できました。また、核酸サンプル量が少なくなるにつれ、プライマーダイマー量が増えることも確認できました。

解離曲線は、融解曲線とも称され、二本鎖DNA結合色素を使用する反応の標準的な熱的分析手法です。非常に特異性が高く増幅した場合は、リアルタイムPCRプレート上の各ウェルに関する融解曲線において1本の幅の狭いピークが確認できます。プライマーダイマーは70°C程度の領域での融解を示す、蛍光度の低い幅広の「波」として現れます。このピークの形とTm値の特徴は、プライマーダイマーのサイズが小さく、しかも一定していないことに起因しています。データ解析の項で示したように、融解曲線においてプライマーダイマーの存在が疑われる場合には常に、NTCウェルとの比較を行ってください。テンプレートが存在しない場合にプライマーダイマーが最も形成されやすいです(図2)。

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図2 (A)特異的増幅および(B)プライマーダイマーの影響を示す、増幅プロットおよび融解プロファイル。プライマーダイマーは(B)において増幅曲線中のNTCにより生成されたシグナルおよび融解プロファイル中の追加ピークとして同定されます。

プライマーダイマーの低減または排除

プライマーダイマーが問題となる場合、反応におけるプライマーダイマーの生成を低減または排除するためにいくつかの方法があります。

  1. 第一の方法はサーマルサイクル条件の最適化ですが、これには主としてアニーリング温度の上昇が行われます。ほとんどの場合、プライマーは60°Cで効率よくアニールするようにデザインされていますが、これは2-Step のサイクル(95°Cにおける変性段階から直接60°Cにおけるアニーリングおよび伸長ステップに進みます)により安定した増幅が可能となるためです。
  2. プライマー濃度を下げることも可能です。さらに、フォワードプライマーとリバースプライマーの比を変化させることが有用となる場合もあります。ほとんどの場合、各プライマーの最終濃度として200nMが理想的ですが、必要であれば60nM程度に低下させることも可能です。
  3. マグネシウム濃度は約3mMが最適です。これ以上の濃度ではプライマーダイマーが生成しやすくなります。
  4. プライマーダイマーが形成されるかどうか評価されていなかった場合には、評価を行い、必要であればプライマーデザインの変更を検討してください。通常、ホットスタートDNAポリメラーゼの使用および、反応のセットアップを氷上で行うことが望ましいです。
  5. 理想的には、同一のターゲットに関して複数のプライマーセットを同時に試験することが必要です。実際この方法により直ちに使用可能なプライマーペアが見つけられれば、最適化に費やす多くの時間を節約することが可能となります。

1-Step qRT-PCR反応では、プライマーセットが存在する状態で、低温でのRT反応を行うため、プライマーダイマーが増幅する危険性が高くなり、より一層の注意が必要です。一方で、プライマーダイマーが問題とならない場合もあります。例えば、プライマーダイマーがNTCウェルにしか現れない場合や、サンプルとNTCウェルのCt 値の差が10以上の場合です(プライマーダイマーの蛍光による全体的なシグナルへの影響がごくわずかなため)。

プライマーおよびプローブの保存

プライマーおよびプローブの保存条件は、見過ごされることが多い要因ですが、リアルタイムPCR解析の長期的な成功および一貫性に大きな影響を与える可能性があります。プライマーおよびプローブの安定性に影響を与える主な要因は、保存温度、保存期間、長期間にわたる光への曝露の有無、プライマーおよびプローブの保存濃度および保存溶液の成分です。

プライマーおよびプローブの不適切な保存に起因する問題

プライマーおよびプローブを不適切に保存すると、分解および特異性が消失する可能性があり、結果として反応効率に影響を与えます。蛍光標識したプライマーおよびプローブに依存する解析においては、分解したプローブが遊離の色素を放出し、バックグラウンドが上昇してシグナルとノイズの比が低下します。このため、蛍光強度が低くなり非常に精度の低い増幅曲線になる可能性があります。プライマーおよびプローブに結合した蛍光色素は、時間経過とともに退色する可能性があり、リアルタイムPCR装置により検出されにくくなります。

プライマーまたはプローブの品質の低下の検出

プライマーおよびプローブの安定性を保持するための第一の防御法は、簡単な保存時間のモニターを行うことです。多くの場合、プライマーおよびプローブは、1年間(あるいはそれ以上)は安定です。しかし、保存条件が最適でない場合には、保存条件に関連した影響が6ヵ月以内にあらわれることもあります。

プライマーの品質を評価する最も適切な方法は、増幅曲線を定期的に作成する方法です。反復の不正確さおよび融解曲線における複数ピークがみられる場合、特に以前にそれらの現象がみられていない場合には、安定性が低くなっていることの一般的な兆侯といえます。

蛍光標識されたプローブおよびプライマーの場合には、装置のマルチコンポーネントビュー上の蛍光バックグラウンドの値が正常より高い場合に、プローブの分解が示唆されます。

蛍光標識したプローブまたはプライマーが分解していない場合でも、蛍光色素自体が分解している場合には、反応産物がエチジウムブロマイドで染色したゲルで確認できますが、リアルタイムPCR装置では検出されません。

図3には、保存条件が適切でないプライマーの影響を表わす増幅曲線が示されています。図3Aの増幅プロットは分解したプライマーによる負の影響を受けており、図3Bの曲線は適切に保存されたプライマーを用いた良好な結果を示しています。融解曲線からはさらに詳細が明らかとなり、複数の非特異的産物が存在していることが示されています。

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図3 保存が不適切だったプライマーの影響を示す。増幅プロット(融解曲線および蛍光バックグラウンドにより示されています)(A) vs. 適切に保存されたプライマー(B)

プライマーおよびプローブの長期にわたる安定性の維持

プライマーおよびプローブの安定性の維持するためには4つの重要点があります。凍結乾燥されたプライマーは保存時間および保存温度に関してより長期に安定です。濃度調整したプライマーは–20°Cで保存し、約1年以降は機能性の低下の兆侯をモニターすることが必要です。標識したプライマーおよびプローブに関しては標識を光から保護することにより(不透明なチューブの使用および暗所での保存など)長期保存することができます。

さらに、プライマー濃度も安定性に影響を与える可能性があります。プライマーを10μM以下の濃度で保存することは推奨しません。実際、ほとんどの場合において100μMのプライマー濃度が扱いやすい濃度となっています。プライマーおよびプローブは、特に標識されている場合には分注して保存し凍結・融解サイクルを最小限に抑えることが必要です。最後にTE緩衝液は水よりも安定的な環境です。さらに、0.1mM EDTAを含むTE緩衝液は(標準的なTE緩衝液に含まれる濃度である1mM EDTAと比較して)、より良い選択です。これはいくつかのPCR反応では、残留するEDTAの影響を受けやすいためです。

テンプレート無しコントロール(NTC)での増幅

前の項で述べたように、2本鎖DNAに結合する色素を使用するとプライマーダイマーが生じた場合にはテンプレート無しの反応においても増幅シグナルが検出される可能性があります。しかし、それ以外の場合でもテンプレート無しのウェルで増幅がみられる場合があります。プローブを用いた反応でも、2本鎖DNA結合性の色素を用いた反応でも、コンタミネーションによってサイクルの後半に遅れて増幅が起こることがあります。テンプレート無しコントロールウェルのすべてで増幅が起こるわけではなくこのような現象がランダムにおこる場合、ピペッティングエラーが原因の可能性があります。一方、すべてのテンプレート無しコントロールウェルで増幅が見られる場合には、使用した試薬のいずれかがコンタミネーションしている可能性が高いと考えられます。以下にコンタミネーションを回避/ 除去するためのいくつかのステップを挙げます。

  1. 清潔な作業スペースを使用します。作業台の表面をきれいに拭き取り、必要に応じて核酸を分解する試薬を使用します。
  2. 以前に実施したPCR反応からのコンタミネーションを避けるため、dUTPとUDGを含むマスターミックスを使用します。そうすれば以前の反応から混入したPCR産物は分解除去できます。
  3. どの試薬に問題があるかどうかを確認するため、可能なら新しい試薬チューブもしくは由来が異なる試薬と入れ替えます。
  4. 可能なら、別の場所で反応のセットアップを行います。これは特に非常に拡散しやすく、その除去が困難なプラスミドのコントロールを使用している場合に有効です。

PCR阻害物質および反応効率の低下

ここまでの説明により、リアルタイムPCRのアッセイデザインおよび最適化の重要な要因の中における反応効率の重要性はすでに十分に理解されていると思われます。もう一度見直しておくと、反応効率の算出には検量線(ターゲットテンプレートの段階希釈試料から作成されたもの)を用います。この反応効率の値は、反応全体の「正確性」のマーカーとしての機能を果たします。効率が低いときと高いときでは異なる結果になります。このような状況を改善するための方法は極めて多様です。理想的な反応効率は100%ですが、90%~110%の範囲が広く受け入れられています。

高効率または低効率の要因

反応効率が110%を超える場合は反応に阻害が存在することを示しています。阻害の要因には、低品質のRNAまたはDNA、高濃度のテンプレートおよび核酸精製の残留物などがあります。例えば、シリカカラムが使用された場合、DNAまたはRNAを抽出させるために使用したカオトロピック塩がTaq DNAポリメラーゼを阻害する可能性があります。有機溶媒抽出を使用した場合には、残留するフェノールおよびエタノールが同様の効果をもたらす可能性があります。

通常、阻害は反応効率が90%以下になる要因として一般的ではありません。効率の低下の要因には最適化されていない試薬濃度(主にプライマー、マグネシウム、そして特にマルチプレックス実験においてはTaq DNAポリメラーゼ)などがあげられます。その他の効率の低下を引き起こす要因としては、プライマー間のTmの差が5°C以上であること、およびサーマルサイクル条件が最適化されていないことなどがあります。前述したように、チューブ中での競合は反応効率が低くなる原因となります。

ターゲットの効率が高い場合においてもあるいは低い場合においても、ターゲットとノーマライザーの効率を合致させることが、データの精度を維持するためには非常に重要です。例えば、ターゲットAに関する効率が95%で、ノーマライザーに関する効率が96%である方が、ターゲットAに関する効率が99%で、ノーマライザーに関する効率が92%である場合よりも適切です。

歪んだ効率の問題点

90%~110%の範囲を超える効率は、結果に人為的な歪みを生じ、誤った結論へと導く可能性がありますが、これは主に比較用のターゲットが異なる効率を有することに起因します。さらに、阻害および効率の低下もアッセイの感度に影響を与え、ダイナミックレンジが縮小し、汎用性が低下する可能性があります(図4)。

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図4 反応効率を評価するためのテンプレートの段階希釈。早いCt 値を示す希釈物においてはCt値が互いに接近しており、曲線は異常な形状を示しています。テンプレートがより希釈されるにつれて阻害の影響がなくなり、曲線は特徴的な指数関数的形状相により近くなります。

効率の歪みの同定

前述したとおり、特定のアッセイが非効率的であるかどうかを同定するための最良の方法は、未知試料において期待される濃度範囲において希釈されたテンプレートの標準曲線を作成し、その範囲における効率を観察することです。結果はほぼ100%であることが必要です。

融解曲線またはゲル電気泳動法において複数のピークが観察される場合には、反応中で競合していることが示され、その競合が確実に反応効率に影響を与えています。

効率の低下または阻害の解決

反応が阻害されていること、または反応の効率が低下していることが判明した場合に、効率を望ましい範囲に戻すいくつかの方法があります。

  1. 阻害に関しては、テンプレートの濃度が最も高いウェルを除いて検量線を解析し直すことができます。もし効率が110%以下に戻れば、アッセイに問題はありません。但し、検量線から除いた濃度はすべて実際のアッセイには使用しないように注意してください。
  2. もう一つの解決法として、テンプレートの再精製があります。その際には、エタノール沈殿由来のエタノールを除去するために乾燥時間を長くすること、またはシリカベースの精製由来のカオトロピック塩を除去するためにカラム上での精製を追加することを忘れないでください。
  3. 効率の低下に対してはアッセイの最適化によって解決することが可能です。その過程は比較的簡単な場合もありますが、場合によってはアッセイの複雑性が増すにつれて最適化が煩雑になる可能性もあります。
  4. 単一の産物のみが増幅される場合には、マグネシウム濃度を6mMにまで上昇させることにより効率を改善することが可能ですが、競合が存在する場合にはマグネシウム濃度を低下させることが効果的である可能性もあります。
  5. 主としてマルチプレックス反応においては、プライマーおよびプローブの最適化マトリックスが必要となる場合があります。この場合、特定のアッセイに関する理想的な濃度の組み合わせを見つけるために、フォワードプライマーとリバースプライマーの様々な比、そして時には異なるプローブ比を試験します。理想的なプライマー濃度は100nM~600nMの範囲であり、理想的なプローブ濃度は100nM~400nMの間です。
  6. サーマルサイクリングの条件(特にアニーリング温度)がプライマーのTmに関して好適であり、プライマー同士が同様なTmを有するようにデザインされていることを確認してください。

反応に関連しているように見られる問題が実際はソフトウェア関連の問題であるという場合も存在します。ソフトウェアの設定を検証あるいは最適化することにより期待に沿う結果が得られるケースもしばしば存在します。

ソフトウェア解析設定

先に述べたように、解析により良好なアッセイが表示されなくなっている可能性が存在する場合もあります。データの精度に最も大きな役割を果たす解析設定は以下のとおりです。

  1. 増幅曲線ベースラインの直線性
  2. ベースラインレンジ設定
  3. Threshold Lineの設定
  4. レファレンス色素

増幅曲線ベースラインの直線性は、結果に影響を与える可能性のあるパラメータの一つです。装置ソフトウェアは一般的に、増幅曲線の平らな部分(蛍光の増幅がみられない部分)を自動的にベースラインとして設定します。しかし、ノーマライザーとして18 Sを使用する場合のように、Ct が非常に早い場合には、すでに平らではない部分が誤ってベースラインに含まれてしまう可能性があります。図5にはベースライン設定を変化させた同一のプロットです。図5Aには、サイクル1からサイクル14のベースラインによるプロットを示していますが、蛍光は10サイクル目から検出されているため、この設定は幅が広すぎます。その結果として曲線が沈みCt が遅くなります。図5Bは、ベースラインをサイクル2からサイクル8の範囲にリセットした結果を示していますが、曲線およびCt値は正確な位置に戻っています。

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図5 (A)設定が不適切なベースラインおよび(B)設定が正しいベースラインを示す増幅プロット

ベースラインレンジの設定は、あまり頻繁には考慮されませんが、反応の効率に影響を与える可能性があります。図6に示すように、装置の初期設定によりほとんどのアッセイで適切な範囲に設定されます。しかし、手動で調整することにより結果をさらに改善することが可能な場合もあります。

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図6 許容可能な反応効率を獲得するためのベースライン設定法の比較。(AおよびD)これらのプロットにおけるベースラインは手動により非常に広く設定されており、検量線の傾きは–2.81 で、好ましい範囲である–3.58 から–3.10(90%から110%の効率に相当)の範囲から大きく外れています。(CおよびF)ここにはAおよびDと同一の曲線が示されていますが、ベースラインは装置により自動的に選択されたものです。傾きは理想的な範囲内にあり、アッセイはこのダイナミックレンジにわたって検証されています。(BおよびE)これらのプロットにおいては手動による調整が行われ、さらに4~5サイクルがベースラインに含まれており、傾きはさらに改善され、効率がほぼ100%となっています。

Threshold Line の設定(バックグラウンドを超える蛍光レベルで、Ct 決定のために使用される値)はソフトウェアにより自動的に設定されるもう一つのパラメータですが、これも手動で調整することが可能です。

同一のランで複数のキットまたはケミストリを評価する際に、しばしば手動での調整が必要となります。ソフトウェアは自動的に、より高いプラトーを有する曲線(図7の青色のプロット)に理想的なThresholdを設定します。しかし赤色のプロットに関する理想的なThresholdはさらに低い値であるため、この結果は同一のデータセット中の赤色のプロットのCtにバイアスをかけます。このため、各データセットを別々に解析し、各状況に応じて理想的なThresholdを選択することが必要です。

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図7 対数プロットのスクリーンショット。プラトーの高さの異なる、すなわち異なる指数対数的増幅期を有する2セットの増幅曲線の例が示されています。 増幅曲線において、Ct 決定のために最も正確な部分は対数プロットにおける指数関数的増幅期のちょうど真中に当たります。理想的な閾値の設定は各データセットによって異なることもあります。

また、初期設定で多くの場合極めて適切な位置に設定されますが、必要に応じてさらに精度を向上させるために、Thresholdを指数関数的増幅期の真中に手動で設定することも可能です。

検量線のダイナミックレンジの検証により、アッセイ毎に許容可能なテンプレート濃度が決定されます。検量線の最高または最低濃度が実際の解析において使用されない場合に限り、反応効率を向上させるためにこれらの濃度を排除することも可能です(図8)。

一般的に、効率が低下する場合にはいつでも両端のデータポイントを排除することが可能であるため、非常に高いテンプレートから非常に低いテンプレートまで検出限界を広げておくのもよいでしょう。

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図8 異常値を排除することにより達成された検量線の傾きの改善。5桁にわたる段階希釈に関して増幅反応を行いました。この範囲において、傾きは–2.9であり、好ましい効率の範囲から外れています。下段の曲線では、検量線から希釈度の最も高い点を排除して効率を再解析しました。傾きは–3.1に改善し、アッセイを検証するために十分な効率であると考えられます。

ROXおよびフルオレセインなどのレファレンス色素の使用は、装置およびユーザーに起因するエラーの影響を排除するための強力な方法です。レファレンス色素の使用は非常に一般的になっているため、この「舞台裏の」因子は、多くの場合忘れられたり、反応に負の影響を与えることはないとみなされたりしています。しかし、装置と色素自体の関係を理解しておくことは重要です。

レファレンス色素を使用する装置においては、ソフトウェアにより不活性色素のシグナルがターゲットの発する蛍光から差し引かれます。このため、例えばROXのレベルが高すぎる場合には、得られるターゲットシグナルが非常に低くなり、波状で一貫性のない増幅プロットを与えます(図9A)。

一見したところ、反応が失敗し、多くの最適化が必要であるように思われますが、いったいどこから始めればよいのでしょうか? しかし、ノーマライザーとしてのROXチャネルのスイッチを切り、データを再解析すると、実際のところデータは適切であることがわかります(図9B)。つまりレファレンス色素の標準化の問題であることがわかります。もしROXを含まない試薬を使用した場合は、ソフトウェアのリファレンス色素オプションを必ず“None”に設定して解析していただくことが必要です。

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図9 レファレンス色素に関する補正。(A) ROXなどのパッシブレファレンス色素のレベルが高い場合、ターゲットのシグナルが低くなります。(B)ROXのシグナルを解析から除去すると、ターゲットシグナルは期待される範囲に収まります。

前述したとおり、装置ソフトウェアの設定はほとんどの場合適切に行われます。しかし、これらの設定を検証することによりデータの精度の信頼度をさらに向上することができます。ソフトウェアによって選択されたベースラインが増幅曲線の平らな範囲のみにあることを確認し、必要に応じてベースラインのレンジを増加または減少させてください。増幅曲線を対数プロットで観察し、Threshold が指数関数的増幅期の真中付近にあることを確認してください。y軸を蛍光プラトー強度に対して適切にスケール化し、異常値を標準曲線から排除して効率およびR2 値を改善することが可能であることに留意してください(これらの希釈が「未知」試料の評価に使用されていない場合に限ります)。

最後に、比較を行うアッセイ間では、ベースラインおよびThreshold の設定が同一であることが必要な点に留意してください。

トラブルシューティングは、リアルタイムPCRアッセイの検証および使用において避けることのできない問題です。しかし、以下のように重要点を整理して理解することにより、比較的簡単なプロセスとすることが可能です。

  • プライマーダイマーがシグナルまたは反応効率の低下に影響していないことを確認してください。
  • プライマーおよびプローブの安定性を維持するのに必要な対策を講じてください。
  • 反応評価の最終段階として検量線を作成してください。
  • 90%以下の効率は110%を超える効率とは非常に異なるものであることを理解してください。
  • 必要に応じて装置の解析設定を検証し調整してください。

増幅しない

アッセイによっては、全く増幅しない問題が発生することがあります。これまでにご説明したすべてのステップを行っても増幅しない場合、発現量が少ない、逆転写の問題、アッセイデザインの問題など、その他の要因で増幅していない可能性があります。

発現量が少ない

遺伝子発現解析を行う際には1-100 ng のcDNAを用いるのが一般的です。しかし、調べたい遺伝子の発現量が低い場合には使用量をもっと増やす必要があります。この場合、使用できる上限量までの範囲内で、cDNA使用量を振って反応します。アッセイがきちんと機能していることを確認するために、ポジティブコントロールサンプルも同時に反応するのが理想的です。どの程度の発現量であるか不明な場合には、文献をご参照いただくか、NCBI UnigeneデータベースのESTの発現データから異なる組織の発現量比をご参照いただくことができます。

逆転写に関する問題がある

低発現に関連しますが、サンプル中の目的遺伝子が低発現の場合には、アッセイの感度を上げる必要があるかもしれません。qPCR反応に対してcDNAの使用量が多すぎないかどうかをチェックします(通常最大の使用量はPCR反応液量に対して20% v/v)。使用するcDNAが多すぎると、反応液により多くの阻害物質が混入し、反応の効率を低下させる可能性があります。また使用する逆転写酵素とプライマーのタイプをチェックすることも有効かもしれません。一般に逆転写プライマーはoligo(dT)よりもランダムプライマーを使用する方が収量は多くなります。また、Invitrogen™ SuperScript™ III Reverse Transcriptase のような遺伝子工学によって熱に対する安定性が強化されている酵素は、収量の改善に有効です。反応試薬のすべてについて、増幅効率を高める方向に最適化されているかどうかをチェックします。

アッセイデザインに問題がある

特定のアッセイで全く増幅が起こらない場合、そのプライマー/プローブが正しいターゲットを検出できるようにデザインされていない可能性があります。NCBIなどの配列データベースで目的遺伝子のバリアントについてチェックします。そのアッセイが、使用しているサンプルでは発現していない、あるいは複数バリアントのうちの1種類だけを検出するようなデザインである可能性もあるからです。また、プライマー/プローブが、コード領域かイントロン上なのか配列のどの部分をターゲットにしているかも確認します。たとえば、遺伝子の5’ UTR をターゲットにしているアッセイでは、トランスフェクション細胞での導入遺伝子を検出できないことが想定されます(なぜなら、トランスフェクションで用いるプラスミドには通常UTR領域は含まれないからです)。同様に、イントロン配列をターゲットとするようなアッセイはcDNAサンプルを用いた場合、増幅が起こらないと考えられます。

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