幹細胞の基礎を学ぼう

幹細胞の基礎を学ぼう

幹細胞概論

幹細胞とは、自己複製能と分化能を持つ特殊化していない細胞と定義されています(図1.1)。自己複製とは、幹細胞が複数の細胞分裂の周期を経ても、未分化状態を維持する(すなわち、母細胞と同一の娘細胞を生成する)能力と定義されています。これに対し、分化能とは、幹細胞が体内に存在するニューロン、肝細胞、あるいは筋細胞などの特殊化した細胞タイプに分化する能力です。最近まで、幹細胞は、2種類の主要な成体幹細胞および胚性幹細胞について一般的に研究されてきました。成体幹細胞は未分化状態にあると考えられており、組織の分化細胞中に存在します。その主要な役割は、成体幹細胞が存在する組織の維持と修復です。成体幹細胞は多分化性ですが、その分化は由来となる組織内の様々な細胞タイプへの分化に限られます。胚性幹細胞(ESC)は、着床前の初期胚から分離されます。成体幹細胞とは異なり、ESCは、より長期間の培養にわたり分裂することができ、ヒト体内に存在するあらゆる細胞タイプに分化する能力を持つことから、多能性幹細胞(PSC)と呼ばれます。他のタイプの多能性幹細胞に、人工多能性幹細胞(iPSC)があります。iPSCは、皮膚線維芽細胞などの体細胞をリプログラミングすることによって作製することができます。ユニークな特徴を持つ多能性幹細胞は、発生生物学、疾患モデリング、薬剤スクリーニング、および細胞療法の領域において、計り知れない可能性を秘めています。健常ドナーまたは疾患ドナーの体細胞から直接iPSCを作製することを可能とするリプログラミング技術がより発展することにより、可能性はさらに広がります。

本記事の末尾において、幹細胞について体系的に学べる無料コンテンツを紹介しています。

幹細胞のキャラクタリゼーション

近年の技術の進歩に伴い、多様な幹細胞株(stem cell line)が様々な条件において誘導および培養されています。さらにこれらの幹細胞から成熟した機能的な分化細胞を誘導するために多種多様なプロトコールが開発され最適化されてきました。PSCおよび成体幹細胞の質、ならびにそれらの分化誘導を確認するための信頼できるキャラクタリゼーション法には巨大なニーズが存在します。既存のキャラクタリゼーション法は、細胞同定のためのキーマーカー発現の解析や、細胞の挙動および安全性に影響を与える可能性のある異常の検出によって、主として、分化能などの基本的な特性についてテストするアッセイパネルから構成されます。
免疫組織化学やフローサイトメトリーなどの抗体ベースの検出法は一般的に使用されています。高品質の抗体は、幹細胞研究の成功と迅速な発展に寄与するキーファクターの一つです。弊社は、多くの幹細胞研究用一次抗体を提供しています。本ハンドブックは、この分野に関連する情報の概要の提供と、研究を支援するための抗体リソースおよびプロトコールを幹細胞科学者に提供することを目的としています。

幹細胞の分化

多能性幹細胞

前述のように、ヒト多能性幹細胞(PSC)は、自己を際限なく再生し、適切な微小環境においてヒト体内に存在するほぼ全ての細胞タイプに分化する能力を特徴とします。PSCは、胚性幹細胞(ESC)と人工多能性幹細胞(iPSC)の2種類が一般的に研究されています(図2.1)。ヒトESCは、発生中の胚の胚盤胞期の内部細胞塊から単離されます *1 。iPSCは、ESCと同等または類似する細胞ですが、成体体細胞をリプログラミングするためのOCT3/4、KLF4、SOX2、およびc-MYCなどのリプログラミング因子の発現を経て生成します *2,3 。iPSCは、患者の幹細胞の誘導を簡素化することにより幹細胞研究に革命をもたらしました。これにより、iPSCを使用して、シャーレ中で疾患特異的な細胞タイプのモデルを作製することが可能となりました。これらのモデルは、疾患病態のメカニズムを定義するのに有用で、治療ターゲットの同定や創薬において重要な役割を果たすことができます。機能的な成熟細胞に分化するよう方向付けることが可能なiPSCを無制限に供給できることは、糖尿病、肝疾患、およびパーキンソン病やアルツハイマー病などの様々な疾患に対する細胞療法のため
の原材料として非常に有望視されています。

人工多能性幹細胞および胚性幹細胞の誘導

多能性幹細胞のキャラクタリゼーション

iPSCおよびESCでは、未分化幹細胞状態を維持するためにNanogおよびOCT4などのキー転写因子の発現が必要とされます *4 。これらの転写因子は、細胞の分裂、分化、および発達に重要な遺伝子を調節します。これらの転写因子の他に、TRA-1-60、TRA-1-81、SSEA3、およびSSEA4などの特定の一連の細胞表面タンパク質は、通常、PSCによって発現します。これらのマーカーの存在の検出は、新たに誘導されたiPSC株(iPSC line)およびESC株(ESCline)のキャラクタリゼーションにおける最初のステップの1つです。特定の細胞の染色は、これらの確立された多能性マーカーに対する抗体を使用することで達成できます(表2.1)。

生細胞の免疫染色
細胞表面タンパク質は、全細胞に色素標識抗体で迅速に染色することができます。放射線照射したマウス胎仔線維芽細胞(MEF)のフィーダー層上で培養したiPSCコロニー上のPSC表面マーカーTRA-1-60の生細胞免疫染色の例を図2.2に示します。CD44は、MEFを含む多くの分化細胞で発現される表面タンパク質ですが、PSCでは発現しません。新たに誘導したiPSCコロニーが完全にリプログラミングされているかの確認には、TRA-1-60のポジティブ染色とCD44のネガティブ染色を使用することができます。

多能性幹細胞において発現されるキーマーカー 色素標識一次抗体を使用した生細胞の免疫染色

固定細胞の免疫染色
iPSCクローンの品質の信頼性を向上させるためには、わずか1つか2つでなく、複数のPSCマーカーの発現について確認することが推奨されます。Oct4、Nanog、Lin28、およびSox2などの一部のマーカーは細胞内タンパク質であるため、これらのマーカーの染色を行う際は固定および透過処理が必要とされます(図2.3)。これらのマーカーおよび他のPSCマーカーに対する色素標識一次抗体を使用すると(表2.1)、二次抗体染色工程を回避でき、実験にかかる時間とコストを削減し、多重染色を行うことが可能です(図2.4)。

ヒトESC H9株におけるNANOGおよびLIN28、ならびにヒトiPSC HEL11.4株におけるSOX2の免疫蛍光分析

フローサイトメトリー
上述の染色およびイメージングのアプローチは定性的であるのに対し、フローサイトメトリーはマーカーを発現した細胞の個数およびその蛍光強度の定量的測定を提供し、マーカーのあらゆるダウンレギュレーション、あるいは細胞集団の不均一性を明らかにします。最も一般的なのは、SSEA4およびTRA-1-60などの表面マーカーを使用するフローサイトメトリーですが、固定および透過処理した細胞を使用して、NanogおよびSOX2などの核マーカーを使用するフローサイトメトリーを実施することも可能です(図2.5)。

フィーダーフリー培地で培養したヒトESC H9株における TRA- 1-60およびNANOG、ならびにヒトiPSC HEL11.4株におけるSSEA4 およびSOX2のフローサイトメトリー解析

PSCの解析および自己複製遺伝子産物の存在や体細胞遺伝子産物の不在について確認することは重要ですが、PSC株の機能的多能性についての確認には十分ではありません。この他の重要な試験に、PSCの三胚葉(外胚葉、中胚葉、内胚葉)の各細胞への分化能の評価があります(図2.6)。この試験は、 in vitro および in vitroのいずれのアプローチによっても達成できます。

iPSCおよびESCはいずれもbFGFの非存在下で懸濁培養すると胚様体(EB)を形成

テラトーマ形成
マウスPSCを使用する場合、四倍体補完法、キメラ作製、および生殖系列伝達などの数多くの in vitro アッセイを通して、分化能を評価することができます。これらはヒト細胞で実行可能な選択肢ではないため、代わりにヒトPSCをマウスに注入し、テラトーマを形成させて、三胚葉への分化能を確認することで解析することが可能です。in vitro アッセイでは、生理的条件下での細胞の分化が可能なため、テラトーマ形成はPSCの分化能を確認するためのゴールドスタンダードと考えられます。しかしながら、この方法は非常に手間がかかり、完了まで6~12週間を要し、動物実験の負担が大きいことから、常に実施されるわけではありません。

胚様体(EB)形成
テラトーマ形成に代わるより一般的な方法は、EB形成という in vitro アッセイで、7~21日でPSCが三胚葉に自発的に分化します。分化は非生理的条件下で生じますが、EB形成はより迅速で、労力が少なく、簡単に解析できるという利点があります。EBにおける分化を解析するための一般的なマーカーには、中胚葉の平滑筋アクチン(SMA)、内胚葉の初期肝細胞マーカーのα-フェトプロテイン(AFP)、および外胚葉のニューロンマーカーのβ-IIIチューブリン(TUBB3)があります(図2.7)。一連の胚葉マーカーを使用する免疫蛍光は、これらの各マーカーが特定の細胞系統で選択的に発現するだけでなく、視認による追加の測定として機能し細胞内局在パターンの識別も示す点で特に有用です。例えば、抗TUBB3染色は、特徴的なニューロン様突起を持つ細長い細胞に対する一般的に最も明るい染色です。SMAをしっかり発現する細胞では、アクチンフィラメント染色の線模様が表示されます。これらの細胞は、大きい層のグループによく見られ、時には鰓状の形状を持つ大型細胞として単離されます。抗AFP染色は、通常、それぞれ核の周囲にリング状と呼ばれる染色パターンを持つ細胞の密集したクラスターを同定します。他にも多くのマーカー、例えば、内胚葉のPDX1およびSox17、外胚葉のSox1およびOtx2、ならびに中胚葉のNKX2.5およびPDGFRaが各胚葉のキャラクタリゼーションに使用されてきています(表2.2)。


代表的な三胚葉マーカー

参考文献:
1. Thomson JA, Itskovitz-Eldor J, Shapiro SS et al. (1998) Embryonic stem cell lines derived from human blastocysts. Science 282(5391):1145–1147.
2. Takahashi K, Yamanaka S (2006) Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors. Cell 126(4):663–676.
3. Yu J, Vodyanik MA, Smuga-Otto K et al. (2007) Induced pluripotent stem cell lines derived from human somatic cells. Science 318(5858):1917–1920.
4. Pan GJ, Thomson JA (2007) Nanog and transcriptional networks in embryonic stem cell pluripotency. Cell Res 17(1):42–49.

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多分化能幹細胞(分化複能性幹細胞)

多分化能幹細胞とは、あらゆる幹細胞と同様に長期の自己複製能を持ち、特定の機能を持つ特殊化した細胞に分化することのできる、特殊化していない細胞です。多分化能幹細胞は、多能性幹細胞(PSC)とは異なり、様々な細胞タイプへの分化能が限られています。誘導された分化細胞は数も限られています。それゆえ、成体幹細胞、より正確には体性幹細胞と呼ばれる細胞は、多分化性であると考えられます。なぜなら、分化能が特定の1つまたは複数の細胞種に限られているからです。例えば、骨髄内の多分化能幹細胞は全ての血液細胞タイプに、脳内の神経幹細胞はグリア細胞および神経細胞に分化可能ですが、 他の細胞には分化できません。しかしながら、間葉系幹細胞(MSC)として知られる多分化能幹細胞は、いくつかの細胞タイプに分化することが可能です。この特殊な幹細胞は、骨、筋肉、軟骨、脂肪および他の類似した組織に分化することが確認さ
れています。

成体幹細胞は、脳、歯、骨髄、末梢血、骨格筋および精巣などの様々な組織における幹細胞ニッチに存在します(図3.1)。成体幹細胞は、組織を維持するためにさらなる細胞が必要とされる通常のニーズによって、あるいは修復が必要とされる疾患や組織損傷によって活性化されるまでの長期間にわたり休止(未分化)状態が維持されます。成体幹細胞は、長年にわたり、骨髄移植を介する白血病の治療、ならびに脳および脊髄損傷の治療に対する多くの前臨床試験および臨床試験において使用されています。様々な組織に存在する代表的な成体幹細胞

間葉系幹細胞

間葉系幹細胞は、数十年前に初めて骨髄から採取され、多様な機能を果たしている可能性が in vitro および in vivo で示されました *1 。MSCは骨髄における幹細胞ニッチに寄与し、平滑筋、脂肪細胞、骨、および軟骨の発達と修復に寄与し、通常、大部分の組織および器官の柔組織に寄与していると考えられます(図3.2)。MSCはた、多様な成長因子、ケモカイン、およびサイトカインを分泌することにより重要な栄養機能を発揮し、細胞増殖、血管新生、抗アポトーシス、および抗炎症反応を誘導します。間葉系幹細胞研究の進歩によって、これらの幹細胞が免疫調節療法(すなわち、移植片対宿主病やクローン病の予防)などの様々な臨床アプリケーションおよび骨や軟骨などの間葉組織のための細胞置換療法において、どのように使用可能かについて明らかにされると考えられます。MSCは、骨髄、脂肪組織、血液、真皮、胎盤、臍帯、骨格筋、および乳歯などの様々な組織から分離されてきました。これらの様々なMSC集団は形態(不均一性)、成長、および分化能において相違があるにも関わらず、細胞には共通に持つ特性が存在します。International Society for Cell Therapy (ISCT) の提案する in vitro 培養細胞のキャラクタリゼーションに基づく基準2 では、MSCは、細胞表面マーカーCD73、CD90、およびCD105を発現し、CD34、CD45、CD14、HLA-DR、CD11b、およびCD79aを発現しないとされています。

in vivo の表現型研究において、MSCはCD146、Stro-1、CD90、CD105、CD44、およびCD73が陽性、CD45、CD11b、およびCD14が陰性であることが明らかにされました(図 3.3)。弊社は、MSC用一次抗体を提供しています。多くのISCTによって同定されたヒトMSCを定義するためのポジティブマーカーとネガティブマーカーが含まれます(表3.1)。

MSCの分化能 MSCのキャラクタリゼーション 間葉系幹細胞のポジティブマーカーおよびネガティブマーカー

ヒトMSCは、適切な培養条件下で、脂肪細胞(脂肪)、軟骨細胞(軟骨)、および骨芽細胞(骨)に分化する能力を持ちます(図3.4)。
骨髄由来のMSCは、デスミン、β-ミオシン重鎖、心筋α-アクチン、および他の筋肉細胞マーカーを発現する筋細胞(筋肉細胞)などの他の中胚葉由来の組織にも分化する能力を持ちます。Wnt/β-カテニン経路および TGFβ/Smad 経路は、MSC 分化の調節において重要な役割を果たしていることが知られています。Wnt/β-カテニン経路は、骨芽細胞増殖および軟骨分化を抑制することによる骨格形成の促進において極めて重要です。しかしながら、TGFβ経路は MSC における遺伝子発現をアップレギュレーションし、軟骨分化を促進します *3 。表3.2に、様々な間葉細胞系統から誘導され得る様々な細胞タイプの代表的なマーカーおよび弊社が提供している代表的な抗体をまとめています。

MSCの中胚葉系統への多分化能 間葉系幹細胞から分化誘導される様々な細胞タイプの代表的なマーカー

造血幹細胞

造血幹細胞(HSC)は、Bリンパ球およびTリンパ球、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞、単球、血小板、ならびに赤血球などの血液のあらゆる細胞タイプに分化する多分化能幹細胞です(図3.5)。造血の変動は、白血病、リンパ腫、および貧血などの様々な疾患と関係していることが指摘されてきました。HSC移植および造血細胞の注入は、白血病や他のタイプの血液疾患の治療に幅広く臨床的に使用されています。HSCは骨髄、末梢血、および臍帯血に存在します。ヒト白血球抗原適合ドナーの不足と移植可能な細胞数が限られていることは、HSCの治療への使用の妨げとなります。近年のリプログラミング技術およびヒトPSCからの造血分化の進歩は、造血発生を研究、血液疾患をモデリングし、移植およびがん治療用として免疫学的に適合する細胞を作製するための新しい機会を提供してきています *4 

造血幹細胞発生の概略図

PSCからHSCを分化誘導するためのプロトコールは現在最適化が行われていますが、ヒトPSCからの造血細胞分化は、 in vivo での胚の造血と類似した分化段階を経て成熟することが知られています(図3.6)。簡潔には、中胚葉誘導によってBrachyury、APLNR、およびKDRなどの初期中胚葉マーカーを発現する細胞の生成に続き、造血における系統が決定され、GATA2およびSCLを発現する血液血管性中胚葉前駆細胞が誘導されます。続いて、CD34を発現する造血幹細胞、CD43をアップレギュレーションする造血前駆細胞(HPC)、および成熟造血細胞が発生します(表3.3)。
HSCは、精製や顕微鏡による可視化が困難な小さい非接着性細胞です。一般的に、HSCは静止状態において、様々な細胞表面抗原をターゲットとする10~14種類の抗体パネルを使用するフローサイトメトリーによって同定されます。例えば、マウスHSCは、Lin–(細胞系マーカー)、Sca-1+(幹細胞および前駆細胞の推定マーカー)、cKit/CD117+(SCF受容体)、およびTie-2+(内皮細胞および造血細胞において発現されるチロシンキナーゼ受容体)によって定義されるのに対し、ヒトHSCは、CD34+、CD59+、Thy1/CD90+、CD38lo/–、cKit/CD117+、Lin–、およびCD43+という特性を持ちます(図3.7および表3.3)。

in vitro および in vivo でのPSCからの造血発生の概略図造血系統の代表的なマーカー参考文献:
1. Murphy MB, Moncivais K, Caplan AI (2013) Mesenchymal stem cells: environmentally responsive therapeutics for regenerative medicine. Exp Mol Med 45:e54.
2. Dominici M, Le Blanc K, Mueller I et al. (2006) Minimal criteria for defining multipotent mesenchymal stromal cells. The International Society for Cellular Therapy position statement. Cytotherapy 8(4):315–317.
3. Williams AR, Hare JM (2011) Mesenchymal stem cells: biology, pathophysiology, translational findings, and therapeutic implications for cardiac disease. Circ Res 109(8):923–940.
4. Lim WF, Inoue-Yokoo T, Tan KS et al (2013) Hematopoietic cell differentiation from embryonic and induced pluripotent stem cells. Stem Cell Res Ther 4(3):71.

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多能性幹細胞の分化

胚体(胚性)内胚葉、肝細胞、および膵β細胞

先の章で述べたように、多能性幹細胞(PSC)の重要なアプリケーションの一つに細胞療法があります。慢性肝疾患および糖尿病は、全世界の罹患者数がそれぞれ600万人および300万人以上に及ぶ疾患です。ドナー細胞の不足と質の低さから、移植可能な組織に対する需要が着実に増加してきており、PSCから誘導された移植可能な肝細胞およびβ細胞は罹患者の治療に非常に有望視されています。in vitro での PSCからの機能的な成熟肝細胞および膵β細胞の分化誘導は困難であるにも関わらず、近年、機能的グルコース応答性インスリン分泌β細胞1,2やいくらかの肝機能活性を有する肝細胞様細胞3の形成を可能とする連続的な分化ストラテジーが報告されています。PSCは、まずSOX17、FOXA2、およびCXCR4を発現する細胞が数多く含まれる胚体(胚性)内胚葉に誘導されます(図4.1および表4.1)。膵臓系統では、胚体(胚性)内胚葉から原腸管(HNF1b+/FoxA2+)、前腸後部(PDX1+/HNF6+/SOX9+)が形成され、続いて初期膵臓前駆細胞(PDX1+/NKX6.1+)が含まれる膵臓内胚葉が形成されます。PDX1(膵臓ホメオドメイン転写因子)(図4.2)およびNKX6.1(ホメオボックス転写因子)は、膵内分泌前駆細胞を形成する多能性前駆細胞のキーマーカーです。膵内分泌前駆細胞は、最初にNGN3を発現し、続いてNEUROD1およびNKX2.2の発現を誘導します。その後、PDX1+/NKX6.1+/NEUROD1+内分泌細胞は、インスリン+/グルカゴン–/ソマトスタチン–の未熟β細胞に分化し、最終的にUCN3、MAFA、およびC-ペプチドなどの成熟β細胞マーカーも発現する成熟β細胞に分化します。これらのPSCから誘導されたβ細胞は、グルコース刺激に応答してインスリンの分泌およびCa2+の流入を導くことが報告されていることから、機能的なβ細胞であることが示唆されます。肝臓系統では、人工誘導PSC(iPSC)-由来肝細胞様細胞(iHLC)は、胚体(胚性)内胚葉からの段階的な分化を経て形成されます。まず、前腸・肝に特殊化された内胚葉(HHEX+、HNF1B+、およびFOXA2+)となり、続いて肝芽細胞(α-フェトプロテイン+、CK14+、およびProx1+)となり、その後、アルブミン、α1-アンチトリプシン、およびα-フェトプロテインなどのプロトタイプの肝細胞マーカーを発現するiHLCに成熟します(図4.1および表4.1)。
成熟ヒト肝細胞とは異なり、iHLC では、CYP3A4 および 2A6 などの重要な解毒酵素の発現量が低くなります。現在、iHLCをさらに成熟させて、機能的肝細胞へ分化誘導するためのストラテジーの開発が進められています。

in vitroでのPSC分化からのβ細胞および肝細胞様細胞の形成の概略図代表的な胚体(胚性)内胚葉および膵臓および肝臓の細胞系マーカー参考文献:
1. Rezania A, Bruin JE, Arora P et al. (2014) Reversal of diabetes with insulin-producing cells derived in vitro from human pluripotent stem cells. Nat Biotechnol 32(11):1121–1133.
2. Pagliuca FW, Millman JR, Gurtler M et al. (2014) Generation of functional human pancreatic β cells in vitro. Cell 159(2):428–439.
3. Schwartz RE, Fleming HE, Khetani SR, Bhatia SN (2014) Pluripotent stem cell–derived hepatocyte-like cells. Biotechnol Adv 32(2):504–513.

神経系統

近年における幹細胞生物学、神経科学、およびリプログラミング技術の理解の進歩は、不治の神経変性疾患およびニューロン損傷の有望な治療を開発するための研究の新しい道を切り開きました *。 幹細胞は、自己複製し、分化した細胞を生じさせる能力を持つため、中枢・末梢神経系の障害および損傷に対する幹細胞補充療法は罹患した神経組織にニューロンや他の神経細胞を再配置させるように働きます。この目的を達成するための主要なストラテジーの一つは、神経幹細胞の内在性再生能力を活性化することによって、あるいは神経細胞または胚細胞を移植することによって、神経系の正常な発達を再現することに狙いを定めています。

哺乳類のニューロン新生は、神経外胚葉の誘導に始まり、神経板が形成された後、それが隆起してヒダとなり神経管が形成されます。これらの構造は、神経上皮前駆細胞(NEP)の層から形成されます。NEPは迅速に原始神経幹細胞(NSC)に変換されます *2 。NSCは自己複製能を持つ多分化性前駆細胞で、成体などの中枢神経系に存在します。NSCおよび神経前駆細胞は、発生中にわたって存在し、成体神経系にも存在し続けます。複数のクラスのNSCは、互いに分化能力、サイトカイン反応性、および表面抗原特性が異なることが確認されています。in vitro で、多能性幹細胞(PSC)から誘導されたNSCは、転写因子SOX1、SOX2、PAX6、およびVI型中間系フィラメントタンパク質ネスチンなどの特定の一連のマーカーを発現することで特徴付けられます(図5.1)。SOX1は、初期のニューロン新生の引き金となり、NSCを未分化状態に維持する機能があります。SOX2は、キー転写因子で、PSCおよびNSCの自己複製特性を維持します。PAX6は、ニューロン新生初期に神経外胚葉マーカーとして機能します。NSCは一度樹立されると、PAX6を発現し続けても、その細胞運命は特定の神経サブタイプに限定されます *3 。ネスチンも、CNSの発達初期の間に発現しますが、NSCが分化し、成熟ニューロンやグリア細胞になると消失します。

ニューロンの分化中、NSCは進行性の細胞系譜の制限を受け(図5.2)、グリア前駆細胞(CD44+/A2B5+)が形成され、アストロサイト(GFAP+)(図5.3)およびオリゴデンドロサイト(Galc+およびO4+)となります。細胞系譜の制限における他の分岐には、ドーパミン作動性(DA)ニューロン(図5.5)、GABA作動性(GABA)ニューロン(図5.6)、および運動ニューロンなどの様々なタイプのニューロン(図5.4)の形成につながる神経系統の経路があります。NSCの単離法、PSCからのNSCの誘導法、および in vitro での増殖法の開発における進歩は、NSCを基礎的な発達研究や細胞療法のための有望なツールとして使用することを可能としました *2  

PSCからDAニューロンなどの特定の神経細胞サブタイプに直接誘導するための様々な分化誘導プロトコールも開発されてきています *4。 これらのアプローチは、研究対象の疾患に関連する特定のタイプのニューロンの生成を可能とします。

in vitro でiPSCから誘導した神経幹細胞のキャラクタリゼーションBeta-3 Tubulin Monoclonal Antibody (2G10) 神経系統の代表的マーカー抗GABA抗体を使用したGABAニューロンの免疫蛍光分析

神経障害における幹細胞の使用に対する需要は高まっているにも関わらず、対処すべき重要な課題が存在します。例えば、高品質の神経サブタイプを一貫して産生するように最適化されたシステムが必要とされています。NSCのキャラクタリゼーションを通して、神経パターン形成および中枢神経系に寄与する3つの主要な細胞タイプ(すなわち、ニューロン、アストロサイト、およびオリゴデンドロサイト)の形成(表5.1)、ならびにそれらをサポートする微小環境に対する理解を深めることは、臨床的成功の可能性を向上させるのに極めて重要です *1 

参考文献:
1. Ichida JK, Kiskinis E (2015) Probing disorders of the nervous system using reprogramming approaches. EMBOJ 34(11):1456–1477.
2. Gage FH, Temple S (2013) Neural stem cells: generating and regenerating the brain. Neuron 80(3):588–601.
3. Zhang X, Huang CT, Chen J et al. (2010) Pax6 is a human neuroectoderm cell fate determinant. Cell Stem Cell 7(1):90–100.
4. Kriks S, Shim JW, Piao J et al. (2011) Dopamine neurons derived from human ES cells efficiently engraft in animal models of Parkinson’s disease. Nature 480(7378):547–551.

抗体: 幹細胞研究のための強力なツール

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弊社の抗体が引用されている代表的な文献

 

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~主な内容~

  1. 幹細胞概論
  2. 多能性幹細胞
  3. 多分化能幹細胞(分化複能性幹細胞)
  4. 多能性幹細胞の胚体(胚性)内胚葉、肝細胞、および膵β細胞への分化
  5. 多能性幹細胞の神経系統への分化
  6. 抗体:幹細胞研究のための強力なツール

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