分泌型IgA抗体を誘導する粘膜ワクチンや新たな抗体医薬への応用を目指して(国立感染症研究所 長谷川秀樹 氏、佐野芳氏)-「NEXT」2017年3月号掲載

分泌型IgA抗体を誘導する粘膜ワクチンや新たな抗体医薬への応用を目指して(国立感染症研究所 長谷川秀樹 氏、佐野芳氏)-「NEXT」2017年3月号掲載

多種類の目的タンパク質をExpi293 Expression Systemで確実に回収

長谷川秀樹 氏(国立感染症研究所感染病理部部長)
佐野 芳 氏(国立感染症研究所研究生、東北大学大学院生)

長谷川秀樹 氏(国立感染症研究所感染病理部部長)国立感染症研究所部長の長谷川秀樹氏は、ヒト粘膜の免疫反応の中心となるIgA抗体が、従来知られていた2量体だけではなく、3量体、4量体などの多量体を形成することで、中和抗体価や交叉防御能(少し異なる抗原にも対処する能力)が向上することを報告しました※。さらにin vitro でも確認しつつ、この成果を基に、より予防効果が高く、より簡便に接種できるインフルエンザワクチンの開発や新たな抗体医薬品の開発を目指しています。長谷川氏のもとで研究を進める東北大学大学院生の佐野芳氏は、抗原や抗体タンパク質の作製にGibco™ Expi293™ ExpressionSystemを使っています。「従来の接着細胞の系に比べて、このシステムは浮遊細胞を使うので、扱いやすく収量も増えました」と語ります。

高い収量が得られるExpi293 Expression Systemでスクリーニングもスムーズに

「これまでにIgA抗体を約100種類、ヘマグルチニン(HA)抗原を10数種類ほど発現させ、交叉性の高い抗体をスクリーニングしてきました。この発現キットを使うことで、確実に目的タンパク質を回収できます」と佐野氏は語ります。「キットに含まれるExpi293F細胞は、高密度培養でも塊にならず、きれいな球形で増えていきます。そのため継代などの作業も楽で細胞も数えやすく、実験に合わせて細胞を準備でき、実験スケジュールも立てやすいですね」と続けます。培養は、インキュベーター内に、湿気に強いシェーカーを設置してCO2濃度8%で行っています。「200mLの培養系なら、HA抗原では4mgから8mgの収量が得られます。抗体は多い場合には30mgぐらい回収できたこともありますよ」。IgA抗体の精製はThermo Scientific™ CaptureSelect™ を使い、HA抗原は純度を上げるために、HisタグとStrepタグによる2段階のアフィニティ精製を行うとか。「スクリーニング用に発現させる場合には、6穴の培養皿で行うこともあります。2mLという少量の系でも、Expi293Expression Systemなら十分な量を得られます」と話します。

安全でより効果の高い経鼻ワクチンや新しい抗体医薬品の開発へ

『自然感染によって誘導された免疫は、ワクチン接種による免疫よりも、ウイルス感染への交叉防御能が高い』という事実は、すでに1960年代から知られていました。長谷川氏は、「その要因の一つは、自然感染によって誘導されるIgA抗体そのものではないか」というアイデアのもと、鼻の粘膜にワクチンを接種する、経鼻ワクチンの研究を続けてきました。さらに多量体化したIgA抗体が、2量体よりも高い中和活性や交叉能を示すことをヒトのサンプルで確認※。従来の皮下注射ワクチンではウイルス感染後の発症を抑えることはできますが、感染そのものを妨げることはできません。またその効果は流行株に限定されてしまいます。「多量体IgA抗体を効果的に誘導できるようなワクチンであれば、高い感染防御能が期待できます」。また長谷川氏らは試行錯誤の結果、in vitro でIgA抗体の多量体を作ることにも成功しました。「IgA抗体作製には、H鎖、L鎖、J鎖、SC(分泌コンポーネント)の4種類を発現させる必要があります。構築したそれぞれのプラスミドの比率を変えてExpi293F 細胞に同時に感染させることで、in vitro でも多量体を形成できます」。経鼻インフルエンザワクチンは、すでに臨床試験の最終段階まで進み、数年後には実用化される予定です。「今後は他の呼吸器感染症に対するワクチンの開発も手掛けたい。また粘膜は呼吸器だけでなく、腸管など体の中で大きな面積を占めます。粘膜特有の免疫機構の解明や、IgAの多量体を抗体医薬品として効果的に応用する研究等も製薬企業と協力しつつ進めたい」と話します。

※’Relationship of the quaternary structure of human secretory IgA to neutralization of influenza virus’ Suzuki T. et al . Proc Natl Acad Sci U S A 112:7809-7814(2015)

哺乳類細胞で最大1g/Lのタンパク質発現システム
Expi293 Expression System

浮遊系のHEK293細胞(Expi293F細胞)で、組換えタンパク質を大量に一過性発現させるトータルシステムです。

Expi293 Expression Systemの詳細情報はこちらから

ライフサイエンス情報誌「NEXT」

NEXT2017年3月号当記事はサーモフィッシャーサイエンティフィックが発刊するライフサイエンス情報誌「NEXT」2017年3月号からの抜粋です。
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