神経や筋も備えた機能的立体臓器「ミニ腸」を創り出す(国立成育医療研究センター研究所 阿久津英憲 氏)-「NEXT」2017年10月号掲載

神経や筋も備えた機能的立体臓器「ミニ腸」を創り出す(国立成育医療研究センター研究所 阿久津英憲 氏)-「NEXT」2017年10月号掲載

鍵は多能性幹細胞が有する自己組織化をどう引きだすか

阿久津英憲 氏( 国立成育医療研究センター研究所再生医療センター生殖医療研究部部長)

阿久津英憲 氏( 国立成育医療研究センター研究所再生医療センター生殖医療研究部部長)将来的な医療応用を見据え、異種動物由来成分を含まないゼノフリーの培養条件にこだわり、これまでにいくつものヒトES細胞を樹立してきた国立成育医療研究センターの阿久津英憲氏。2017年1月、ES細胞から機能する腸管オルガノイド「ミニ腸」を創り出すことに成功し、報告しました「生体内と同じように、複数の種類の細胞が連携して働く、立体的で機能的な臓器を創りたい」という、阿久津氏の強い信念が今回の成果につながっています。「ミニ腸」は、生体の腸と同じように吸収や排出や蠕動運動を行うだけでなく、薬剤への応答もヒト腸と近似しています。阿久津氏に、「ミニ腸」創生の概要と意義、そして今後の展開について伺いました。
※A xenogeneic-free system generating functional human gut organ oids from pluripotent stem cells. JCI Insight. 2017 Jan12;2(1):e86492

世界初の「ミニ腸」はどうやって生まれた?

どのようにしてミニ腸の創出に至ったのでしょうか。阿久津氏は、「幹細胞の持つ自己組織化の力に期待した結果だった」と答えます。「数年前、マウスのES細胞を培養している時に、変な動きをする細胞の塊に気づきました。心筋のようにリズミカルではなく緩やかな動きをしていました。直感的に腸ではないかと思いましたが、こんなシンプルな培養条件で複雑な構造の腸ができるとは信じられず、すぐに現象を突き詰める気にはなりませんでした。しかししばらくして、もし立体的な臓器ができるのなら、様々な応用への道を拓き、医療への貢献も大きいと想い、腰を据えて取り組むことにしました」と振り返ります。そしてシンプルな培養環境を維持しつつ、幹細胞の自己組織化の力を最大限に活かす方法に着手。共同研究先の大日本印刷会社に直径1,500マイクロメーターのドット上だけで細胞を培養できる微細加工を施したパターンディッシュを作製してもらい、そこでES細胞を培養しました。細胞を撒いて数日後、数種類の因子を加えた培養液で分化誘導すると、細胞が徐々に盛り上がり、半球形となり、数十日後に底面から自然に剥がれ始めました。中が空洞で立体的な細胞の塊が再現性良く形成されるようになります。「この細胞の塊はヒトの腸と同じスピードで動き、数か月後には1-2センチまで成長します」と阿久津氏は話します。

機能し、まるでヒト腸のように運動するオルガノイド

培養を続けながらこの細胞の塊を調べたところ、腸としての高い臓器機能性を備えていることを確認できました。「内胚葉由来の腸上皮、中・外胚葉由来の筋、神経も含む複雑な構造を形成しており、発生段階に沿った遺伝子発現も確認できました。特有の蠕動運動、トランスポーターを介した低分子化合物の吸収や分泌も観察でき、培地中で長期間生存する点も特長です」と語る阿久津氏。「最初は論文を投稿しても、なかなか返事がこなかったり、腸ではなく心筋ではないかとの厳しいコメントもありました」。海外の研究グループも腸のオルガノイドの研究を発表していますが、彼らは内胚葉由来の上皮細胞からなる組織しかできていません。複雑な腸ができることは想像を超えていたのかもしれません。さらに研究を続け、ミニ腸の特性解析として定量PCR解析、免疫組織化学染色などより腸上皮細胞、粘膜下組織(平滑筋、カハール介在細胞、腸管神経叢)を有することを明らかにしていきます。「薬への応答性では、ヒト用の下痢や便秘の薬への反応も生体の腸に似ていました。下剤を培地に加えると動きが活発化し、便秘薬を加えると動きが止まります。しかも実験後、薬剤を洗い流せば別の実験にも使えます。腸は生体に投与された薬剤を吸収する重要な働きを担っています。薬物代謝や薬剤開発のための臓器モデルとして使えそうです」とミニ腸の有用性を説明します。

ミニ腸[ミニ腸は大きさが1-2cmで、腸管蠕動様運動も認められます。]

環境を整えて幹細胞の背中を押す

次にミニ腸の作製にあたり重視した点をお聞きしました。「シンプルな方法で自己組織化能を引き出すためには、培養ディッシュと共に培地の選択も大切です。医療への応用が前提なのでゼノフリー環境は譲れません。この研究では、Gibco™ Knock out™ DMEMとGibco™ CTS ™ Knock Out™ SR XenoFreemediumをベースにオリジナル培地を使用しました。ヒトES細胞の樹立の時から使い続けてきた培地シリーズであり、ロット間差の少なさ、核型の維持や増殖能などの観点から、他の培地等と比較検討しました。また新しいGibco™StemFlex™ Mediumは、多能性幹細胞の増殖能を高かめ、未分化能の維持に優れているので、安定な幹細胞培養に適している様です。今後、さらに検証していきたいですね。私たちの研究は、培養条件を洗練することで自己組織化能を引き出す、いわば幹細胞の背中を押すイメージで分化研究を進めています。培地の質やディッシュなどの培養環境の最適化は非常に重要」と阿久津氏は話します。そして今回の培養法のコンセプトを、「ゼノフリーであること、簡単であること、そして機能性を備えていることの3点だ」と強調します。

「ミニ腸」創生の意義、そして今後の展開

阿久津英憲 氏( 国立成育医療研究センター研究所再生医療センター生殖医療研究部部長)腸管は粘膜上皮や粘膜下組織、腸管神経とこれらを取り巻く筋肉など、三胚葉に由来する多彩な細胞で構成される複雑な組織で、これまで分化誘導は困難とされてきました。阿久津氏が発表したミニ腸は組織構造を忠実に再現しており、初めての立体腸管モデルとして、薬剤応答の解析や難治性腸疾患の病理解明、治療法開発に活かされると期待されています。「日本では潰瘍性大腸炎やクローン病など重篤な腸の疾患が増加傾向で、病態解明、新薬開発のためにはin vitroで解析できるバイオツールが必要でした」と阿久津氏は指摘します。阿久津氏が所属する成育医療研究センターには、新生児期から遺伝性で発病する重い腸疾患で入院する子供も多いそうです。「私の研究の原点は、難病の子供たちを救うこと。常にこのセンターの理念を意識して研究に取り組んでいます」。薬剤の開発や治療法開発に必要な臓器オルガノイドをシンプルに創り出す、阿久津氏は精力的に研究を続けています。

ゲノム編集やシングルセル継代などに適した多能性幹細胞用培地
StemFlex Medium

 阿久津英憲 氏( 国立成育医療研究センター研究所再生医療センター生殖医療研究部部長)最新の幹細胞研究に必要とされるアプリケーションにおいても、優れた性能を発揮するフィーダーフリーで行う多能性幹細胞用培地です。増殖能が向上し、様々なアプリケーションに柔軟に対応します。実験用途に応じて、Gibco™ Geltrex™ やGibco™ Vitronectin等、マトリックスや継代用試薬をフレキシブルに選択できます。

StemFlex Mediumの詳細情報はこちらから

ライフサイエンス情報誌「NEXT」

「NEXT」2017年10月号当記事はサーモフィッシャーサイエンティフィックが発刊するライフサイエンス情報誌「NEXT」2017年10月号からの抜粋です。
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