患者由来iPS細胞から「膵島」を作製し、糖尿病の病態解明と治療法の開発研究へ(国立国際医療研究センター研究所 矢部茂治氏)-「NEXT」2018年10月号掲載

患者由来iPS細胞から「膵島」を作製し、糖尿病の病態解明と治療法の開発研究へ(国立国際医療研究センター研究所 矢部茂治氏)-「NEXT」2018年10月号掲載

鍵となるスフェロイド培養は幹細胞用StemFlex培地を活用

矢部茂治 氏( 国立国際医療研究センター研究所細胞組織再生医学研究部上級研究員)

糖尿病の多くは多因子性ですが、一部には単因子性( 遺伝性)のものがあります。国立国際医療研究センター研究所の矢部茂治氏は、遺伝性糖尿病の一つであるMODY(家族性若年発症糖尿病)患者由来のiPS細胞を作製し、この疾患の病態解明とその研究を基盤にした糖尿病全般の治療法開発を目指しています。さらに次世代の膵島移植として、スフェロイド培養したiPS細胞を膵β細胞へ分化させ、生体内への移植後、最終的に成熟させることで血糖依存的に機能する「膵島」の開発に挑んでいます。

[写真:矢部氏(前列左)と研究室のみなさん。前列右は部長の大河内仁志氏。]

患者由来iPS細胞から糖尿病モデル細胞を作製

MODYは、膵臓のβ細胞におけるインスリン合成や分泌に関連する遺伝子の異常により発症しますが、その詳細な病因は不明です。矢部氏は「これまでにMODY患者由来のiPS細胞(MODY-iPS)を作製し、生体内の発生過程を模倣して膵β細胞に分化させる系を洗練させてきました。この細胞を使って研究を進め、病態解明につなげていきたい」と語ります。さらに「糖尿病は多因子疾患であり、生体外で病態モデルとなる細胞の作製は困難です。しかしMODY-iPS由来の膵β細胞は、生体外で糖尿病の病態を再現するモデル細胞としても活用できます。薬剤スクリーニングを行い、新たな治療薬の開発も可能なはず」と続けます。

またiPS細胞から作製した膵島を生体内へ移植する治療法の研究も進めています。「移植に十分な細胞数を確保するには、面積が限られる接着培養よりも高密度で培養できる3Dの浮遊培養が有利です。iPS細胞をバイオリアクターでゆっくり攪拌しつつ浮遊培養し、成長因子や低分子化合物を加えて発生過程を模して6段階で分化させます。すると約1か月後には膵β細胞だけでなくα細胞やδ細胞を含むスフェアが形成され、インスリンだけでなくグルカゴンやソマトスタチンも分泌する「膵島」の元を作製できました。マウスの実験では、この細胞隗を皮下や腎被膜下に移植して生体内で1ヶ月ほど最終的な成熟をさせると、糖尿病マウスの血糖値が正常化しました。海外で治験を行っているグループは膵前駆体を移植し成熟に半年程かかるようですが、少しでも成熟度を高めて移植する方が安心です」と矢部氏は語ります。

スフェロイド形成に優れたStemFlex培地を活用

「浮遊培養では、細胞数を正確に把握するために、iPS細胞を一旦シングルセル化してスフェロドを形成させます。この時、使うのがGibco™ StemFlex™ 培地。この培地は未分化能を維持する力が強く、しかもシングルセルで浮遊培養開始後、半日から1日でシスフェロイド形成が観察されます。この時点で、シングルセルのままだといくら培養を続けても使えません。他社のスフェロイド専用培地も使ってみましたが、私たちの系ではStemFlex培地でのスフェロイド形成能が高かく、浮遊培養に適していると思いました」と矢部氏は評価します。

再生医療の実現へ向けて

矢部氏が取り組む浮遊培養によるiPS由来膵島作製技術は、AMED事業「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」の拠点Bが進める「iPS細胞を基盤とする次世代型膵島移植療法の開発」にも貢献しています。このプロジェクトでは、管状のハイドロゲルの中に、膵島細胞を入れてファイバー状にしてから移植する方法を共同研究先と開発中です。ハイドロゲルで覆うことで免疫から隔離され、拒絶反応を回避できる利点もあります。「新しい浮遊培養法や複雑な分化過程の管理、さらに品質・機能アッセイなどは手間がかかり、気を使う作業の連続です。そのため研究チームのメンバーの協力と連携が欠かせません。チームで協力し合い、今後、臨床へ向けてプロトコールの完成度を高め、生体内で機能する膵島の移植を再現性良く実施できる系を開発したい」と矢部氏は再生医療の実現へ着実に歩を進めていきます。

ヒトiPS/ES細胞の安定した維持・増殖をサポート
StemFlex Medium

StemFlex Medium

Gibco™ StemFlex™ Mediumは、フィーダーフリーベースのヒトiPS/ES細胞培養用培地です。多能性の特性を長期にわたり維持しながら、高い増殖能で安定してiPS 細胞を培養できます。

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ライフサイエンス情報誌「NEXT」

当記事はサーモフィッシャーサイエンティフィックが発刊するライフサイエンス情報誌「NEXT」2018年10月号からの抜粋です。

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