活性化B細胞の分化決定機構の解明へ(福井大学医学部 菅井学 氏、南部由希子 氏)-「NEXT」2018年12月号掲載

活性化B細胞の分化決定機構の解明へ(福井大学医学部 菅井学 氏、南部由希子 氏)-「NEXT」2018年12月号掲載

フローサイトメーターでmRNAとタンパク質を同時測定

菅井学 氏( 福井大学医学部医学科分子遺伝学[生化学1]教授)/ 南部由希子 氏( 福井大学医学部医学科分子遺伝学[生化学1]准教授)

菅井学 氏( 福井大学医学部医学科分子遺伝学[生化学1]教授)/ 南部由希子 氏( 福井大学医学部医学科分子遺伝学[生化学1]准教授)堀田秋津氏骨髄で産生されたナイーブB細胞は細胞膜表面にIgMを発現していますが、活性化に伴って免疫グロブリン遺伝子の定常部で「クラススイッチ」と呼ばれるDNA組換え反応が起こるとIgGやIgAを発現するB細胞になります。その一方で、クラススイッチ組換えを起こさず形質細胞に分化する細胞も存在し、この細胞はIgM抗体を分泌します。
福井大学の菅井学氏と南部由希子氏は、活性化B細胞のこの2つの分化経路の分岐を司る分子機構の解明に挑んでいます。菅井氏は、「細胞分化の初期過程を詳細に検討するには、分化に関わると考えられる遺伝子のmRNAとタンパク質を1つの細胞で同時に解析することが必要」と感じ、南部氏と共に、Invitrogen™ PrimeFlow™ RNAアッセイという新しい技術の有効性を、活性化B細胞を使って検証しました。

B細胞の分化に関わる転写因子の関係

活性化B細胞の分化プロセスについて、菅井氏らは次のように説明します。「活性化B細胞の分化制御には、Pax5、Bach2、Blimp1という3つの転写因子が関わっています。クラススイッチ組換えには、Pax5とBach2が、形質細胞分化には、Blimp1が必要です。Bach2がBlimp1の発現を、Blimp1がPax5の発現を抑制することから、この分化決定機構は相互排他的と言われています。これらの因子による分化決定後のプログラムは非常によく解析されていますが、その初期過程はほとんど解明されていません」。菅井氏は、「同じ刺激からでも2経路に分岐できるので、そこには共通のシグナル分子がありその分子の揺らぎを反映して、二者択一の分化決定がなされるのではないかと考え、まず細胞内の代謝の揺らぎを大まかに捉えるため、ミトコンドリアに注目して研究を進めました。その結果、ミトコンドリア数が多くて活性が高い細胞ではクラススイッチが起きやすく、逆に数が少なくて活性が低い細胞では形質細胞に分化する傾向がありました。この時、活性の高いミトコンドリア内ではROS(活性酸素)が発生し、このROSがヘムの合成を阻害していることも突き止めました。ヘムはBach2機能を抑制するので、ミトコンドリア活性の高い細胞ではヘム合成が抑制されることでBach2機能が維持され、クラススイッチ組換えが誘導されます。一方、活性の低い細胞ではヘム合成が促進されてBach2機能が抑制され、形質細胞への分化が促進されるという構図が見えてきました」と分化経路の方向性を決める機構の一端を語ります。

シングルセルレベルの解析を目指して

「細胞の分化は、ひとつの細胞ごとに起こる現象です。このことは、細胞分化の研究において、従来の生化学的アプローチ、つまり細胞集団におけるmRNAやタンパク質の発現量の平均値を調べる実験の限界を意味し、より感度の高いシングルセル生物学が精力的に行われるようになりました。その一方で、遺伝子発現制御は、転写制御だけではなく、転写産物特異的な翻訳制御や翻訳後修飾が重要であることが理解されるにつれ、従来型シングルセル解析の技術では解けない課題もあります。ですから研究対象遺伝子のmRNAとタンパク質を1細胞で同時に解析する手法の必要性を感じていました。そんな折にPrimeFlow RNAアッセイを知り、早速試してみました」と菅井氏。
その結果、「各転写因子と2経路の分化マーカーとの関係を、mRNAの発現で解析したところ、従来のタンパク質を使った解析結果を検証できました(図参照)。解析サンプルは、マウス脾臓から精製したプライマリーB細胞なので数もサイズも小さめです。初めて製品を使ったときは、mRNA解析用の実験手順が増えることで細胞をロスすることを心配しましたが、問題なく解析できました」と南部氏。
「Bach2は実験に使える良い抗体がないので、今後この分子の挙動をmRNAで追跡できれば、これまで実施できなかった実験系も組めそうです」と菅井氏も続けます。新たな技術を使って、B細胞分化機構の解析を二人はさらに進めていくと話します。

図.活性化B細胞の分化関連分子の解析 マウス脾臓からB細胞を精製後分化誘導し、関連分子のmRNAとタンパク質発現をフローサイトメーターで解析。mRNA発現は、PrimeFlow RNAアッセイで確認。クラススイッチを起こした細胞はIgG1、形質細胞に分化した細胞はCD138をマーカーとして区別しました。その結果、分化誘導後のB細胞は、Pax5+CD138-とPax5-CD138+のサブグループに分かれることをPax5のmRNA(A)とタンパク質(B)で確認。これはPax5の発現が落ちた細胞だけが形質細胞に分化していることを示しています。またPax5とIgG1の関係を調べると、Pax5-Ig G1-、Pax5+Ig G1- 、Pax5+IgG1+の3グループに分かれることが、Pax5のmRNA(C)とタンパク質(D)で確認できました。このデータからPax5の発現が落ちた細胞ではクラススイッチが起こらないことがわかります。さらにPax5とBlimp1の関係をmRNAで解析したところ(E)、相反する2グループに分かれ、2つの異なった分化経路の存在が示されました。これらの結果は従来の研究結果と矛盾しないことを確認できました。

 

 

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Invitrogen™ PrimeFlow™ RNA アッセイは、フローサイトメトリー上での RNA 測定を可能にします。蛍光色素標識抗体による細胞表面や細胞内タンパク質の免疫標識と PrimeFlow を組み合わせることで、1 つの細胞内におけるタンパク質発現パターンと共に、RNA 転写のダイナミクスを明らかにすることが可能です。

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ライフサイエンス情報誌「NEXT」

当記事はサーモフィッシャーサイエンティフィックが発刊するライフサイエンス情報誌「NEXT」2018年12月号からの抜粋です。
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